「亭主の好きな赤烏帽子」
■1978ポール・デルヴォー「トンネル」


愛が成就するのだ

shall we dance


春になれば土に芽吹く

耀やかな

赤ん坊の小さな拳のやうに

すぐに陽にお指が開いてゆく

夏になれば、小川の流れ

きらきらとして脛にひそやか

愛が昂ぶって来る

秋はきっとおみなごらが、紅葉見る

きあらきあらと青空に千の織姫が声たてゝゆく

冬は手足がかじかみ、ちぢこまり

深い暗い穴ぐらで

指と指とを組み紐のやうに重ね合わせて

ぬくたさについうつらとして


shall we dance

わたしをどこかへ連れてって

shall we dance

この場所ではない、何処かに

季節よりももっと秘密めかしてカーテンのむかうに

通い路はいつも停車場で

ひとりでの真夜中のダンス

腕をかまへて

un、deux、trois

クイック、クイック、スロウ、スロウ


するともう、腕の中にはあなたがゐるのだ

真夜中の電車は人っ子ひとりいなくて

でももう、さみしくはない

組み紐の紐のもつれの

思ひ出も季節も窓の外に過ぎてゆき

これっぽッちの後悔もなく

ひとりで踊る真夜の列車の

濡れ衣だと云ふ

しかし、それでもいい

shall we dance

愛が成就する


倉石智證