「亭主の好きな赤烏帽子」

■1939クレー「山への衝動」ナチスへの抵抗も・・・


林檎が紅く熟れてくる

ポチの鼻面は黒く濡れ

犬小屋から顔だけ出して前足の上に

主人の帰りを待ってゐる


まこちゃんは今頃は川向かうの介護病棟で

暗い廊下を走ってゐる

あっちこっちでまこちゃんを呼ぶ声

ベッドにいまさら結わえつけらたってね

噛みつかれたり、ひっぱたかれたりしたってね

襁褓を夜中じゅうに洗って干さなければならない

しかし、もう少しで夜勤が明ける

けふは、土曜日

ほのぼのと空に明るみが射し

お天気はよささうだ

どこへ行こうか


ポチの鼻づらが濡れ

無聊を慰むとて

林檎畑の草を食む

川靄がたった

まこちゃんはミニを飛ばして橋を渡って帰って来る

ほら、もう少しだ

ポチの鼻づらがピクリと蠢いた

愛しているんだ

はっはっ

林檎が真っ赤に熟れて


倉石智證