■1914アンリマチス「コリウールのフランス窓」
もはや余分な荷物をおろしてほっとしているんだ
食べものを受け付けない
枝に残した数葉をこれらの蝶の幼虫にでも上げようか
水すらも吸い上げなくなって
葉を落とす
すっからかんになった時、旅立ちである
だめだだめだめ
おちつけ
余計なことをしてはいけない
神と仏が出会うんだ
そこに両手を結んで
お旅立ち
きれいになって
口紅をぬって
すこしばかり明るく笑って
収骨のとき、後ろの方から見ていると
本当にそう思った
手足がかたまってきたりしたらダメだね
ぼくが中から見てゐる
ぼくが笑ふと
棺の外からぼくを覗いてゐたひとたちも笑ふ
次々と人が訪れて覗き合ひ
あゝ、それでいいんだ
ぼくはきっと笑いながら
それでいて僕の縫い針のやうに閉じた眼の端に
少しばかり苦し紛れの涙を浮かべる
ぼくの両手はお腹の上に結ばれているから
ぼくはぼくの自分の涙を拭けないでいるんだが
誰かが気がついてそっと拭いてくれる
やっと、さやうならだね
倉石智證
