断章──1

たとへば

バスタブに張った水の表面

たとへば

所在無げなシャワーの口

たとへばあらゆるものを映す鏡だ

バスルームをのぞく

誰もイナイ事実

時計だけが大げさに針を回してゐる


断章──2

山羊の歌は知らない

時計回りの散歩道

生えかかった角

めへェェと

すり寄って来て、股下をぐりぐりやれら

じゃれ合へは

突然、山羊の歌が聞こえる

見えてきた

見えてきた

夏川を渡る

一服の清涼

少しの幸せだ


断章──3

カインとアベルがアダムとイヴの子供たちで

運命的な兄弟にはやはり死が訪れて

アベルの血は地に流れて

それは誰が自分を殺したかをヤハウェに訴える


トロイ戦争の勇士の子孫で、

雌狼に育てられたロムルスとレムスの双子が、

ティベリ川左岸の丘に国を造ったとかどうとか

ローマはいずれにしてもギリシャをまねる


しかし、淫蕩なよこしまな血はこんなところにも流れ来て

Absalom, Absalom!

イスラエル王国を建国したダビデの子、アブサロムは

異腹の兄弟に自分の妹タマルを強姦させる

しかしアブサロムは父ダビデの部下将軍ヨアブによって殺されることになるのだ

父の想いの王国は

病に爛れた南風に支えるものとてなく崩れ去ってゆく


鏡はすべてを映す鏡だ

ずいぶん長いこと時計の針は回り続けた

バスタブに水が張られ

なじみのある風景だが、

ドアを開けて覗くと

やはり、誰もイナイ・・・。


倉石智證

家、共同体、国家の生い立ちの中にふと立ち現われる、

原罪のやうなもの・・・