ひさしさんはおもしろいなぁ
ひさしさんは、梯子を立てる
ひぃ、ふぅ、みぃ
梯子の高さ
音の音階
桃の収穫がおはり
桃の木も、人も安堵してゐる
少し葉の色もくすんでしおたれた桃の木の傍らに
ひさしさんは、梯子を立てる
A、B、C
梯子の高さ、音の調べの
ド、レ、ミ、かもしれない
さん、にぃ、いち
サン、ニィ、イチ
ひさしさんは後ろ手に鳩小屋をまはる
ひさしさんは糖尿病で
あゝ、鳩舎の2階から何羽も鳩が飛び立つ
今は村のお寺の黒い甍の上を廻り
まびさしで、あゝ、眩しい
収穫の済んだ桃畑や、葡萄畑の上を
何度も、高く低く、ぐるりと
きゅんきゅんきゅん、といふ羽音が耳を打つ
ひさしさんは、梯子を立てる
ひぃ、ふぅ、みぃ・・・をもしろいなぁ
梯子の高さ、音の音階
大方は収穫が終はって
果樹畑は静かなもんだ
頭上では鳩たちが旋回し
時々はすごい羽音の生きてる音がものさはぐ
あの青い点々の空の一点で
桃の木の傍らの所在無げな梯子の
一体どんな風に見えてゐるといふのか
ひさしさんは後ろ手で
やはらかく透明な、梯子の下の微笑
もう、秋が来ていた
倉石智證
ひさしさんは桃の収穫が終わって、
畑に収穫の時に使った脚立を立てた。
背の低い順からきれいに、あるいは背の高い順から低い順に。
音の音階・・・
秋めいた日差しがさんさんと照らしてゐる。
ひさしさんの飼ってゐる鳩たちが果樹畑の上を旋回している。
今朝は、鷹に襲われたんだ、
とひさしさんは云った。