「亭主の好きな赤烏帽子」

鑑みて、かんがみる

ミトコンドリアや葉緑素のことだ

酸化し、還元する

呼吸もするが、腐敗もしてゆくのだ


若い時は故郷を出奔して

そんなときは暗い田んぼの山際の辺りに

ぽッと火が燃え上がる

お盆の時の火にも似て

熱くて暗い


そんな風に、故郷は何度か家を出て

なんどか戻って来る

その都度、線路に汽笛が鳴って

胸は夕焼けの湖のやうにひたひたといっぱいになって

うぉー、うぉーと獣じみて叫ぶのだ

重条とした黒い土塊がどこまでもどこまでも続き

母さんは行かないでくれと

柱のたもとにへたりこむ


ダイキリはpapaヘミングウェイ

原子心母はPink Floyd


葉緑素がびゅんびゅんとCO2を吸っているよ

田圃は真っ青になって広々と傾いでゐるよ

青草を食むマダラ牛の豊満なおっぱいを空に浮かべて

長いことぼんやり眺めていたらみょうちくりんな気持ちになって

長い時が経てばなんでも許される気持ちにもなって

今では一台切りの赤い列車が

青い田んぼの上を元気よく横切ってゆく


今度こそは楽々と Boat にでも乗って旅に出てみようか

青いボートになんか乗って

水の上を悠々とゆく

水色の旅

ゆく先々でたまには市場によって

ものすごく寛いだ鷹揚な気持ちになってお客をからかう

サウダージ───

鑑みて、かんがみる

あいつは何処へ行ったんだと聞いたら

トイレにゐた


倉石智證

「Atom Heart Mother」は、1970年Pink Floyd。

Saudade=郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つ、

ポルトガル語およびガリシア語の語彙。