思うどち
遊び惚けぬ
魚野川
虫鳴きすだく
土手の長さに
柳涼める、さらさら枝の
枝の下ゆく水の流れる
傾き出せる簡易テーブル
まず乾杯と空に夏雲
谷川(岳)に雲のせかかり
石の上へに腰おろしつつ
ゆく水に足浸しおる
冷へゆけば左の足を
右足を水面に上げる
トンボ翔ぶ、涼しき方に
じゃ篭には水の出入り
楽しくて眼をそばだてる
風のゆく、右へ左へ
夏草のそよぎを見れば
あぎと、あぎと
汗の滴る
川床に水の皺寄る
魚串にむしゃぶりつけば
蛸串に蛸のほんのり
烟眼にしむ
蛸の色付く
流木を集めて燃やす
魚野河原に
石伝い、薪集めて
思うどち、日がな遊びぬ
さらさら水の
雲の立ちゆく、まずは乾杯
形よき石に眠らん邯鄲の夢に聞こへる水に虫の音
倉石智證
井上靖(1907,5/6 - 1991,1/29)
自伝的小説3部作の第1部が「しろばんば」。
湯ケ島小学校時代を舞台にした作品は
大正期の時代感や田舎の風俗、家族制度が活写され、国民文学の趣だ。
沼津中学(現沼津東高校)時代を描いた
「夏草冬濤(なつぐさふゆなみ)」(1964新潮社)が第2部。金
沢での第四高等学校時代が舞台の「北の海」が第3部。
青春小説としての人気は「夏草冬濤」が一番ではなかろうか。
「思うどち
遊び惚けぬ
そのかみの
香貫(かぬき)
我入道(がにゅうどう)
みなとまち
夏は 夏草
冬は 冬濤」


