緑雨です

このみどり雨を両手に受けて

あなたの唇に差し上げたい

畑の中のトルソーは夏草に埋もれかけて

あちこちに

横顔が蒼褪め

雨が降りだすと百姓はすることを取り上げられ

長い愚痴がはじまるまへに

さうだ、病院に行かう

眼のまへのぶだうの房にみるみる透明な水滴が膨らみあがり

緑のぶだうの房がざあぁッと棚下に向かうの方まで広がり続け

この緑雨を両手に掬い

あなたの唇に差し上げたい


若者たちがひとり去り二人去りして

村々の陋屋に老人ばかりが残ると

ひん曲がった身体で

肩に手をやり

手を握り返すとその冷たさにギョッとする

畑のあちこちでトルソーが傾き始める

スベリヒユが足元から絡まり始める


緑雨です

われわれはいま開国橋の上にゐる

大きな青鷺が釜無川を飛び立ち

橋の上をゆっくりと越へて行った

介護病棟には小父さんがひとりゐて

断固として動かない右手指の間に疥癬がはびこり

小父さんは歩行器の上で次第に木偶のやうに傾き

トルソーがみるみる畑の中に傾き始め

横顔が蒼褪め

手を握り返すとその手の冷たさにギョッとする

乾いた日なら

この緑雨を両手に掬い

罅割れたこのトルソーの唇に

少しでも


倉石智證