「亭主の好きな赤烏帽子」

小岩井農場では羊をめぐる諧謔

それは小雨降るなだらかな緑の丘の斜面

3人は傘を傾けてじっと羊たちを見ていた

なんでみんなこちらを見つめて口をゆすってゐるのだらう

羊の眼は冷静に縦に楕円で

黄金色に雨にけぶってゐる

だからと云って

ジンギスカンにはまだ早い


飯館や南相馬の牛たちも

生きているものはみな元気だ

人の気配も、シーベルトも知らぬ気に草を食んでゐる

猫も犬もインコも

動物たちは人の気配のいったん消えた道道に出て

じっとこちらを見つめている


岩手に帰れば

賢治さんが下の畑に行ってゐて

こんどこそはちゃぐちゃぐ馬仔、出て来い

きれいな嫁子を乗せて北上の辺りを歩かせたい

泣くな、羊たち

泣くな、牛たちよ

今度こそは北斗七星

陰極に間違いはないのだ


倉石智證

2002八重樫道代「チャグチャグ馬コ」(2002年、日本財団蔵)

知的障害者とされる作家たち。

とりわけ色彩の扱いが鮮やかに見えるのは、

既成の彩色法にこだわらず、しかも迷いがないからだろう。

(編集委員・宝玉正彦12,7,18日経)