遺伝は自分自身の由来を物語る
名前はやはり個人存在の象徴なのだ
小百合と山百合は違う
小鳥がチチチと鳴いた
ピースピースは四十雀
部屋の敷居をこへてゆくりなく届くと
妻の膝は急にまろやかになる
耳の穴でもほってもらおうか
どうやらその時が来るまで
誰が決めたと云ふわけでもなく
花が咲き開く
花の色は
そのグラデーション(gradation)
微妙な
あへかな
偽熱・・・
おさへ切れない歓びなのだ
そのカーブ
奇跡のやうなひとつひとつが完璧な
まるで何かを誘ってゐる
名前は人が勝手に名付けたものだが
それでもやはり存在の象徴なのだ
朝まだきに「平和」「平和」と鳴かれた日には
妻は思はずひざをやはらかくして
とりこぼす・・・
あゝ、こんなことならやはり
妻の膝にもたれて
耳の穴でもほってもらおうか
この花瓶に活けられた、百合の花の
最後のエロチカ(erotica)
見事に崩落する
その時が来るまで
倉石智證