この家は眼鼻立ちが整って

階段を上がってゆくと

大きな手が出てきて頭を撫でてくれた

とても温かだった


面付きのよい門があったので

石段を踏んで中へ入ってゆくと

突然、ぐぉうぉんという鐘の音が響き

でも振り返ってみても誰もいなかった


面付きのよい山があったので

てくてくとてくてくとどこまでも登って行ったが

ついに頂上は現れず

へとへとになってしまった


面付きのよき林檎を齧って待った

面わろきを思ふ

オオサンショウウオのやうに大岩の後ろに隠れて出てこない

面わろきを愛でる

柚子やキュウリの面わろきを南瓜なども並べてみる


どこに面わろきやある

橋の下か

おまへは橋の下でひろはれたよ

なんてね

どこに面わろきやある

生い茂る草の下か

バッタやカエルや蚯蚓がうずくまってゐる

どこに面わろきやある

あおくあおく生い茂ってゐる木の後ろにまわって見た

くすくす笑ふ小人は見付かったか


お使いに行っておくれ

村はずれのお墓のまへを通るのはいやだなあ

川にさんざん猫の子や犬の子を流したものさ

笊に乗せて

ばいばい

岸辺にぶつかってくるくると

柳の向かうへ消へてゆく

お使いに行っておくれ

そんなことだから

だから、

いやだなあ


どこに面付きのわろきやある

どこに面付きのわろきやある

そんなこんなで原っぱに出て

額や背中やお腹の窪みに汗をびっしょりにかいていると

あゝ、またしても早鐘を打つ

この家は知っているよ

眼鼻立ち整って

玄関を引き開けて階段を登ってゆくと

かあさんやらとおさんやら分からない大きな手が出てきて

さあっと頭のうへをはらっていった

あの手の平には一筋も人間のものはなかったよ


倉石智證