おまへたちの鬱積する感情をすこしばかりは救ってやれるかもしれない
気鬱は青い玉になってびっしりと葉裏の陰や枝々に生え
わたしはそれを間引きする
青い青い気鬱よ
それで少しばかりは楽になったかい
えらい勢いじゃあないか
棚々に葡萄の蔓は見事に青々と広がり
前後左右もう見境なく波打ち、うねり
次々と天を目指して緑のお指を広げ押したてる
緑摘む季節になった
緑摘む、
えらい勢いじゃあないか
松の新芽はつんつんとすべてが空に向かひ
その白い穂を逆立ててゐる
なかにはほんの少し触れたばかりに
花苞は破れて
花粉を飛ばすのもある
脚立を四方八方に立てゝ、緑摘む
あゝ、この季節は
生きとし生けるものに緑摘み
あり余り、積もり来る気鬱をとってやらなければならない
たとへば松の芽掻きは
松の姿形に沿って空へと脚立をそばだてる
脚立に立って、芽を掻き、芽を掻き上へとゆけば
しまひには松のてっ辺に至り
四囲を見渡せば
微風が頬、顎に吹き渡り
啼鳥はまさしく屋根屋根の瓦に聞こえくるのだ
鬱積するきみらの感情を
気鬱を
爪で取る、剪定バサミで切り落とす
小さきお指をてんでんに棚の間間から空へと広げ
まだ薄緑のその肌へは
白い細かい産毛に覆われ
そんな君たちを小気味よく折ってゆく
房の出来かかったものさへも
容赦なくその脇芽
葡萄たちよ、その気鬱よ
足元の黒土にたちまち緑の脇芽たちの床が点々と続き
そこに思いかけず、ヒヨドリが舞いおりるという具合だ
受粉がゆき過ぎたものだ
忸怩たる思ひだ
青い青い李の玉が
数珠のやうになって葉裏や枝にくっついてゐるところもある
忸怩たる・・・
気鬱だ
油断していたらみな一気に袋の病になって来た
青い実が、ひしゃげ
親指ほどに膨らんで
黄色っぽくしなびて
そんなものが青い玉々の間にたちまち猖獗して来るのだ
安穏としていたものだ
忸怩たる袋の病
ぼくは君らのその鬱積した感情を
少しばかりでも取ってあげなければならないと思っていたのに
ぼくは自分の怠惰と闘ってゐるのだと思っていたのに
またしても今度もごめんごめん
えらい勢いじゃあないか
緑摘む季節
生きとし生けるもの
みなえらい勢いだ
畑に降りて今年も
わたしは 緑を摘む
おまへたちの鬱積する感情を
気鬱の青い玉を
間引きする
少しばかりは救い取ってあげることが出来るかもしれないが
倉石智證
お山のてっぺんぼく一人───

