壁とカウンターのあわいに、男と女たちの枯れたため息が微かに聞こえ、

サヨナラとこんにちは

Hello, Goodbyeのはざまには

それを口にするたびに過ぎ去った日々の苦い思い出がよみがへる


あの手足の長い人たちは前かがみで

何かしてゐる

四つん這いのお腹の下に抱えられるだけのものを抱えて

引っ掻いてゐる

灯りの下で

それは影絵のやうに伸び縮みし

Hello, Goodbye

人ばかりではなくみんな

いつかは、それぞれに別れなくてはいけないことを知る


やあ、と手を挙げると

やあ、と手を出して応える

さやうなら、と云ふと

ごきげんやう、と深々とお辞儀をする

長い日の影が塀の白壁に

これもまた頼りなく伸び縮みする

ついでに花の影もあちこちに左右するやうだ


hello、hello、hello・・・ばかりでなくたまにはさやうならを

さやうなら、さやうなら、さやうなら・・・ばかりではなくたまにはこんにちはを

シーツを畳み

長い読書のブックを閉じ

眼をあげて玄関に出ると───

傘がない

しかし、君に会いに行かなくちゃ


薔薇の茎に雨が降りかかるたびに

微かに鋭い棘があはく針に浮き出て

雨のけぶるを全体的に赤みを帯び

過ぎ去った日々は

偽熱に疼き

わたしは棘にわざと指の腹を刺す


血がうっすらと滲み出たところで

わたしは再びカウンターの中に入る

壁とカウンターのあはひに、男と女たちの枯れたため息が微かに聞こへ

バーボンがいいかジンソーダーがいいか

最後の最後に悩んで見せる

微笑が冷へてゆき

カウンターに一斉に喪服の人たちが勢ぞろいする

長い手足の人たちだ

なにを活計にしてきたか分からない

それでも皆最後には神妙にお辞儀をし

hello、goodbye

棺の胸の上に

咲きかけの赤い薔薇の花を置いてみた


倉石智證