木の後ろに回っても幸せは見付からない
門の後ろに回っても幸せは見付からないかもしれない
「春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ」(大伴家持)
それには見えない手が必要だ
見えない声はどうだらう
invisible
声は見えない
かくれんぼ
祖母の厳しい叱責がとぶ
そっちへ行っちゃダメだ(よ)
障子をうっすらと開ける
子供心にもかあさんはきれいだと思った
屋敷の奥の奥でかあさんはあでやかに笑ふ
かあさんはほんたうにきれいだ
とうさんはその傍らでむっつりしてゐる
わたしはなにかとっても悪いものを見てしまったやうな気がした
湿ったお蔵に入ったら
ひんやりとして
暗がりになれてふっと振り返ったら
白粉を塗りたくったおばぁちゃんが背筋を伸ばして座ってゐた
桃の下照る・・・
かあさんが入って来る
とーさんもむっつりした顔で入って来る
かあさんがあでやかに笑ふ
あゝ、そっちへ行っちゃいけないって云はれたのに
みんな次々と入って来て壇の上にかしこまって座った
みんな白い顔になって動かなくなった
木の後ろに回っても幸せは見付からない
門の後ろに回っても幸せは見付からないかもしれない
見えない声のまゝ誘はれて
かくれんぼ
鬼とかれざるまま老ひて
僕もいつのまにかこの仲間になるんだらうか
そう思ったとたん
急に内心がどきどきしてきた
ひいな、ひいな
何もかもがもう間に合はない
倉石智證
かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしに来る村祭り
寺山修司である。
わたしは───
かくれんぼ鬼とかれざるまま老いて誰をさがしに来る雛祭り
としてみた。