your sleep

あなたの眠りを下さい

後生大事にします

両手に捧げ

部屋をぐるぐる回る

わたしが眠りにつくまで

あなたの眠りをそっと

ポケットに入れて野の原に運び出す

あなたはきっとそのくすぐったさにたへ切れない

your sleep 、

あなたの眠りを下さい

両手に捧げ

なにかおまじないをする

きっとあなたはもっと深く眠ることができる

いいえ、あなたの眠りを盗もうというのではなく

ばれましたか

小川のほとりに出て

形のいい石に腰をおろし

あなたにはすべてを見せますよ

こうした風のそよぎも

川面のきらきした輝きも

三角のくちばしの尖った真っ青な鳥が水に深く潜ってゆくさまや

宝石のやうな水底の小石なども

 

your sleep 、

あなたの眠りを下さい

いえいえ、あなたはもうどこかへ

ということはないのです

あなたの眠りは

ちょうどほら、わたしの両の掌の平の

まるまったちょうどこの凹み辺りにとどまって

深いため息をついたり

時にはひっそりと汗をかいたりしているやうです

 

逃れられない

あなたが体を横にして眠りについてゐる

その、脳の奥深くから遊びに出て

いやだって、云ふのに

居心地がいい

わたしの両の掌の平の間に座り

そこですやすやしてゐる

わたしは後生大事にそれを捧げ持って

わたしの部屋をぐるぐる回る

 

your sleep

あなたの眠りを下さい

おやおや、しかしどうやら真剣に考えなくてはいけませんね

わたしが急に悲しくなったりして

あなたの眠りを

こうやって紙屑のやうにくしゃくしゃっと丸めてしまったりしたら

あなたの眠りは不愉快になる

あなたの眠りは

砂時計の砂のようにさらさらとこぼれ続け

それはあなたを途方もなく不安にさせる

 

あゝ、ついに鼾が止まった

あなたはあなたの眠りの中で身を起こし

じっといぶかしむやうにわたしの方を見ている

わたしは仕方がないのでゼスチャーをして見せ

ほうら、もうわたしの両手の間には何もありませんよと

両手をぶらぶらさせる

 

あなたは何か足りない、と云って泣きだした

分かります

あなたの夢のかけら

たしかにわたしの手の指の隙間から零れてしまった

分かりますよ

朝はもうすぐそこに迫ってゐる

分かりますよ

もう朝がすぐそこに迫っていて

影という影は洗いざらい消されていって

さぁーッと暗がりがはらわれていって

波がベッドの岸辺を洗ってゐる

 

あなたは足りないと云って、顎をしゃくって泣きだすが

分かりますよ

もう朝は玄関までやって来て戸を叩く

両の手の平にあったあなたのsleepは、

まるでお砂糖菓子のやうに溶けてしまって

あゝ、影も形もなくなった

あなたは泣き出す

さっぱり足りないと云って

朝の真っ白な光の中に突っ立って、

 

げっそりとして不機嫌なあなたを

満面の笑顔で玄関から送り出す

「いってらっしゃい」

さあ私はところで、

誰もいなくなった部屋に戻って布団を引きなおすと

窓という窓を閉じて、

布団を頭まで引き被って

べろを出して、さあもう一度眠ってしまうことにする

足りないって云はれても、ねぇ・・・

 

倉石智證