妻は盲ひの人を泣かしてん
身障者と云ふンだ
春が来た
河津桜が赤く咲いて
盲ひの人はヘレンケラー学院を卒業した
妻にお礼に来たのに
もう泣きだした
眼のない眸から涙が出る
夜になるとあちこちの部屋から泣き声が細々と聞こへる
すべての部屋べやは盲になって
中のことはさっぱりわからんが
困ったことがあるから
声も低く泣き声が届くのだらう
すべての部屋べやは細胞のやうになって汗をかき
前後左右やその向かうの上下をうかがふ
妻とも呼ぶ
おっかあとも呼びかける
やはらかくもふとったもんだ
でぶでぶ百貫でぶ
ばかかばちんどんや
おまへのかあちゃんでおおでべそ
電車にひかれてぺっしゃんこ
昔なら・・・
妻は盲ひの人を泣かしてん
対面朗読がよかったずら
学問するのに役立った
鍼灸ばかりではなく
生物や美術もある
その教科書を
村野さんは涙を浮かべてん
それでもう一つのお願いがと
あいよわかりましたと
自転車でとって引き返して
賢治の「注文の多い料理店」を手渡した
CDには朗読童話が入ってゐる
「ゴン、おまゐだったのか・・・」
と読むと
村野さんはまた大泣きに泣いて
妻の両手をとって
お陰でけふヘレンケラー学院を卒業できました
桜は桃色に咲けども
しかし、心細くもあるかな
妻の手をとり
妻は盲ひの人を泣かした
心細くもあるかな
妻も思はずももらひ泣きする
倉石智證