アナタハ神ヲ、信ジマスカ

あなたは社会主義者ですか

あなたは自由主義者ですか

随所に───

笑い声が起こり、爆笑になり

議論が沸騰し、演説が

悲嘆やため息が起こり

感嘆や祈りも起こった


亀有から電車に乗って曙橋に降りた

約百段の階段を上って地上に出る

雪がしらしら

雪の中

さて、自己ヲ凝視しながらトボトボと

曙橋のロータリーを渡って右にコンビニエンスストア

今は午前10時

ふと、ドアが開閉するとオデンの匂いが鼻孔に温かい

深夜の雪はいまはしょぼしょぼになった

舗道の躑躅は雪の帽子をうっすらとのせ

根方には仏の坐、あるいは繁縷はこべらも

雪を緑に七草薺なずな


少し意を強くして先へと歩む

右手には中華屋があって

ランチ480円、ライス食べ放題

チラシが雪の雫に溶けかかる

随所に───

公園に人影はなく、

冬ざれてとぼとぼと

ジャンバーの襟を首元に立てると

吐く息に眼鏡が曇る


随所にである

東美の公衆トイレに

小父さんはマスクを深くヘルメットを被り

折から水道の蛇口から勢いよく水を放出し始めた

便器を荒々しく洗ってゆく

水は床に零れ流れ出し

かまわず、ありありと敵意が

冷たさに

随所に

いたたまれなく

犬の散歩者はただ、犬のあとを追いかける


ここに来たことはあったか

後悔はないのか

ためらいは

坂道を交番の前に上り出すと

ズックの中で足裏が滑る

来たことはないのか

後悔はないのか

エレベーターは4階でとまった


ぼくは正月を明けてクビになりました

ぼくは失業者です

ぼくは仕事がありません

けっこういろんなことでがっかりしています

ドアの前で止まった

やあ、入れ入れ

大きな体が斜めに玄関に入ると

玄関が一瞬暗くなる

変なおっさんが歯ブラシを口に銜え

冬帽を被っていた

部屋に上がり椅子をすすめられて

ぼくは椅子に結構正しく座って

「働きたいのですが」

と云った


1月になった

アナタハ神ヲ、信ジマスカ

あなたは社会主義者ですか

あなたは自由主義者ですか

随所に───

爆笑が起こり、非難や、また歌声も起こるが

すでに季節は蠟梅や水仙の香に

随所に、芳香が漂ふ

しかし、随所に傲慢や野心が

しかし、随所に、停滞や怯懦が

アナタハ神ヲ、信ジマスカと云ったら

辺り一面に腐敗が漂った


昼近くになってようやく部屋も温まって来る

随所に、とわたしが云ったら

妻は

OGAくんて駄目ね

玄関に靴が揃えてなかったわよ

だって


倉石智證

東美=東京美術専門学校

東美の学生たちがデザインした公衆トイレがある。