呑もう

といふことになった

飲もう、飲むならば、飲むとき、飲むのだ

飲も、飲も、呑もー

と云ふことになった

なんといふ意気地のなさ

笑ってしまふ

つい、うれしくて


呑もう、となれば何処で

神田、ていふことになった

あんたがたどこさ

激戦区、だといふことだった

恐ろしいことになっている

トリハイが50円

鯛のお刺身4切れだが10円

恐ろしいことに

まるで笑ってししまふ

焼き鳥は煙りの中で1本50円


あんたがたどこさ

労働価値学説

この分ではあなた様が働けば働くほど、あなた様の価値は下がってゆく

労働は価値を生み、価値は価格に収れんする

とはいふものの

10円とか、50円とか

お客様が群がって

商品数が増えれば増えるほど

流速が増大して

あなた様は厨房の中でコマネズミのやうになって

瀕死の青息吐息に

商品の流量と流速が限界を超えてゆくと

あなたの価値は放物線を描いて落下して

よくあることだが

チャップリンのどた靴

靴の先に穴があく

女の子に、せめて赤い薔薇の花でも届けさせませうか


安くなったら

なんて卑しい気持ちだ

とことん競って安くしやうなんて

哀しい気持ちだ

ワタミ、吉野家牛丼屋、松屋ユニクロ、百均と

巷にデフレが繚乱す

灯り朝まで煌々と

さみしく朝まで立ちつくす


いらっしゃいませ、何名様ですか

何名さまも何もお一人さまに決まってゐる

あまりに食事早いので

声かけるのも憚れる

なに悲しくてぴよぴよと

まるでケージの鶏の

餌をついばむ姿にて

あはれせはしく箸置けば

水を飲むのももどかしく

眼と眼でかはす挨拶も

空しくドアの背に閉じぬ


会話はありませんよ

名前は分かりませんから

流れる人たちですから

もとより顔もありませぬ

レジの音さえ躁がれる


バングラデシュ、ですか

ムハマド・ユヌスさんと合弁会社を作って

今度貧しい人たちに

縫製の赤い裂

青い裂こそ夢模様

街に集まる若者の

故郷忘れ花いちもんめ

これは福音になりますから

貧困から、はだしの貧困からどうにかして

しかし、どう云ひつくろっても

悪魔のささやき

故郷忘れてはないちもんめ

貧しい人の運命に

寄ってたかって群がって

店を出したるNY


ぼくはあんまり好きじゃないなぁ

人さまの時間や運命に乗っかって

あれは資本関係に過ぎず

とてもビジネスモデルだとは思へない

嘘だと思うならお店に寄ってご覧なさい

あそこには純粋な感性や美なんてあり得ない


労働は価値ですから

あなたの労働は時間とかけあわされて

賃金と交換される

おはやうとお店に入ってゆくと

あなたはたちまち商品になって

しかし、せっかく朝まで頑張ったのに

お客様が賑はへば賑はふほど

あなたはますますまずしくなって

実際あなたの賃金は、貧困線にも届かない

交換可能のあなたには

お嫁さんさへもらへない


どうも変ですね、

責任者、出てきてください

この文明は不道徳です


倉石智證

ぼくはこれは結構むつかしい問題だと思ひます。

中央高速の釈迦堂PAに寄ると、

いつもたいてい10時前のことだが、

小母さんがトイレ掃除をなさっている。

すみません、といふと

「ああ、いいですよ」と快く仰ってくださって、

小用をたしていると、

小母さんはぼくから離れた便器をわが身に抱え込むやうにして磨いてゐる。

いつもこの時間に寄るたびの風景だった。

この文明は、人の下に人を作る。

ほんとうに生きるというのはしんどいなあ。

いま欧州で悪さしてゐるマネーも、もとをただせばここに行きつく。

人々は

人権と云ふが、

民主主義と云ふが、

尊厳と云ふが、

結局はここに行きつく恐怖と闘ってゐるのである。

なんとかしてそこに落ち込まないやうに、

生まれた時から訓練される。

あんな風になっちゃあいけませんよ、

世界じゅうのあちこちでママが子どもたちに囁く。

人権とは「みんな等しく扱へ」───

仕事が嫌なんではありません、

せめて尊厳が欲しいのです。

地下鉄の駅のホームで屈んで床にくっついたガムをはがす初老の人、

マスクをした男性の腰をかがめた脇を、

大勢の見知らぬ人たちがすりぬけてゆく。

マネーが大きく立ちあがってくる。


ついでに云へば、

モノを安くすればするほどデフレになる、

円高になる。