貝殻虫殺した
白い白い真っ白い
小指の爪ほどの大きさの帆立貝の白い模様の
貝殻虫殺した
木の枝にたかってゐるのを
むりむりお腹をひっくり返して見ると
お腹が白い中に中心が赤い
葡萄のジュースのやうな
いやそれよりも真っ赤い
こりゃあ生きているぞ
こりゃあどちらかと云ふと生物だ
貝殻の可愛いさ憎し色白く腹にかへせば腹の赤さに
脚立に柿の木に上れば
遠くに八ヶ岳が頭を真っ白にして見える
貝殻虫は真っ白な帆立の貝のふりをして
何食わぬ顔をして
でもうっかり見逃すと
こいつは意外と貪食である
木に栄養を求め
樹液を枯らす
木の病は
こんな風にして
たとへばなに食わぬ真っ白なカイガラムシからやって来る
1月の空はきーんと晴れた
剪定はまず
眉目よく
風通しよく
無駄なく、元気よく
近くは寄っては、遠目からまた見やる
北にとほざかっては北岳に雪白く
睦月、農村山落の風景にすでに覚悟のほどがしのばれる
ここは南アルプス市
果樹に溶鉱剤の噴霧が始まり
SSが農道を走ってゆく
休眠打破をうながす石灰窒素の上澄み
シアナミドは1/10日までと云ふお達しだ
カーバイド、生石灰、消石灰、苦土石灰
苦土には微量元素が入っている
マグネシウムは花に効く
去年の秋から今年にかけて
まず丁寧に土づくりをする
実れば土は酸性に転じるから
ごらんよ、こっちの土は活きている
酵素が土をもこもこにしてくれるんだ
枝を打ち、枝を落とせば
落枝さかんに霜土をうるほし
畑の手ごろなるところに枝を積み上げて
畑のまだ眠るがごとき真中に
焚火を起こす
火盛さかんになればさらに落枝を積み上げ
腕の太きもの、脚の太きたはひもなきものなど
どんどと積み上げ
いまや尻を炙れども思はず笑って逃げ出さんばかりになる
死は避けやうもなくそこにゐる
わが右手におんとして蟹を喰らひ
豚をしゃぶしゃぶして
ビールを喉んどに
すこぶる、すこぶる一向に元気に
顔を赤くして、聞こえぬ耳でTVの映像を探すが
そのすこぶる・・・
正月3日のころに老爺は豆もちを口に飢えしことを不意に老妻に望んだ
老妻いぶかしみ只に驚き
「あれまぁおじいちゃん、さっきお昼ごはん食べたばっかりじゃない」
「豆もち焼いてお昼ごはんにすればいいど」
云った手前、
だが云われてみればなんとなくその通りだ
じ様、はたと思ひ出し
しばらくその間の悪きに恥ずかし気にせんとや
死は避けやうもなくすぐそこにゐるんだ
老老にして去年の暮の26日
風呂場にてば様のちと眼を離した間に
じ様はおそらくは風呂を空焚きシ
アッチッチ、内股から右足首に大きい火傷をした
年越しは病院の通いのまゝに
幸ひに由美子ねーさんが通ってくれたものだが
このまゝ寝た切りになるのかとの92歳
85歳のば様それからうっかり風呂にも入れずに
くしゃみ
眼と鼻からも水を垂らし
声も出ず
7日の日には完ぺきに風邪をひいた
北にとほざかっては雪白きを
平重衡はここを護送されて北に雪白き峰を望み
首落とされるを覚悟に一旦は関東に下った
義兄さん、いい塩梅だ、ちょうど程よく片付いたね
櫛形山に陽が急に翳って来て
久さんちの鳩も塒にかへった
よくあの寺の屋根も崩れ落ちずにもったものだ
瓦屋根が重たく四方に張り出し
有線放送も今日を労ひ
ゆうべの調べは速やかに家路に帰るのを促してゐる
義兄とわたしは足下に焚火の熾きの時に赤く燃え立ち
時に熾きの白く灰に被ってゆくのを眺めてゐる
寺の屋根の瓦の向こうの
桃や李や葡萄畑の上の上の空に
真っ白な月が浮かんでいた
倉石智證
溶鉱剤は石灰と硫黄の合成剤。
噴霧すると硫黄成分の所為か黄色い霧になる。
冬眠している害虫などに効果があるらしい。
平重衡───
平清盛の五男。母は平時子で、宗盛、知盛らとは同腹。
平氏の大将の一人として各地で戦い、
南都焼討を行って東大寺大仏や興福寺を焼亡 させた。
