あっちが介護1

こっちが介護3

えらいことになっている

「ゴメンな、先に帰る」

ボタちゃんは老母が心配だと席を立った


How are you going Fernandes

夜道はみんな同じだ

少し早いが

Merry X'masと云って手を差し出す

Don't mindといって道を避ける

「一杯やりませんか」としばらくの階段を下りる

Oh my Fernandes, what are you doing.

わっと、のけぞる

まんまとしてやられた


渋谷宮益坂下

若者たちが渦を巻いてゐる

ものすごい心の数だ

少女たちがかたまってゐる

男の子たちもかたまってゐる

すぐに二つのグループは一緒になってカラオケ館に入って行った


ちょうどこのころ北のFernandesは亡くなったらしい

多くの心労の果てに

渋谷のこの交差点あたりは夜だというのに煌々と輝いてゐる

さし当たってなに一つ心配のない若者たちはどっとカラオケ館に繰り出し

北の将軍様は心労のあまりずっこけた

寒い寒い朝のことだった

なにひとつ解決の手口も残さないまま

やられたね

死者には勝てない


わっと、のけぞる

まんまとしてやられたね

見えない闇の向こうで何が起ころうとしてゐるのか

Oh my Fernandes, what are you doing.


倉石智證

(「しぶとく生きろ」野坂昭如著)

赤坂、青山、渋谷、表参道付近を焼き尽くした

1945年5月24、25日の東京・山の手の大空襲を取り上げた文章。

「今、若者の集うあたり、賑やかできれいな街。

すべて焼け野原だったといって過言ではない。

人が折り重なって焼け死んだ。

そのあとを生きて歩いているという事実を知っておくべきだろう」

養父の命を奪った神戸大空襲と、

その後、飢餓状態に陥り幼い妹を死なせた14歳時の体験は、著者の原点であり、

本書でも、あの夏に立ち戻っては痛恨の思いを吐露する。

この「焼け野原の死生観」からすれば、飢えを忘れて飽食に明け暮れ、

死とまともに向き合うことを忘れた高度成長後の日本は、脆(もろ)く危うい。


このたびの大震災についても著者は「がんばろう日本」というスローガンに違和感を募らせ、

歴史を理解しないまま表面的に原発の是非を語ることを厳しく戒める。