愛の動機を尋ぬれば

手に手をとりて山へ行く

手に手を取りて川へ行く


カズオちゃんが遊びに来た

ふたりは手に手をとって土手伝いに

春先の月見草の青きを摘みに出かけた

アンゴラ菟の眼が赤い

カズオちゃんが歌へば

わたしもいっしょにつられて歌ふ

カズオちゃんは小2で、わたしは小1


マチボウケ、マチボウケ

或る日せっせと野良稼ぎ

そこへ兎が飛んで出て

ころり転げた木の根っこ


横田のばーさまは萱の葉っぱでわたしのよたれ鼻汁をかんでくれた

すべては待ち呆けだったのだ

春の霞たなびくころ

田面は未ひつじに未だ寒く

土手伝いはようやく芽吹きはじめ

大方はおぼろにとけてゆく

一升びろげでカズオちゃんのお父さまは

呑み過ぎて酔っぱらって

ご機嫌のままにどぶにはまって頭を割った

ころり転げてあの世へいった


もう少し待っててくれれば

もう少し辛抱してくれれば

後生だから


ドングリの青き実のまま

手に手を取って山に入れば

山の神様はふたりをあはれんで

また山の兎を藪下に追い出す

風の又三郎、やぁーい

風がとほくに去ると

稲穂もたわわに

すぐに村の境に墨黒々の白旗が高く掲げられ

祭りの季節がやってくる


お祭りまでは天ぷらに

青い実のままとって置く

紫蘇の葉はやたらたやすいもので

屋敷の畑のあちこちに

だけれども、それもお祭りまでで

種になって茶色になってはだめなんだ


紫蘇の実のかなしかなしと醤油漬け

祭りのころの青き実のまゝ

もぎられて

かなんとか

だまされて

瓶に詰められて

だなんとか


祭りになるとみんな早々とお百姓を切り上げて

とほくからもやって来たな

姻族の近きとほくも

屋台に子供たちが群がる

恒信さんもはや赤ら顔に酔って

初枝さんもオミトさんもみんな寄ってくらった

寄っておくんなさい

いや、寄ってがっしゃい


ぽろぽろぽろぽろと子供が生まれる

くっついたり離れたりしている

わたしはばーさまの頭痛やみがうつったみたいだ

わたしはばー様に「ぜんぶしょってえってくんねかい」と云ったつもりだが

はて、聞こえたかどうか


どうしたもんかどうだか

そっとしといてもらいたかった

愛の動機を尋ぬれば.

手に手をとりて山へ行く

手に手を取りて川へ行く

愛の動機を訪ねれば

山から小僧下りてくる

紅葉平に風が吹き

孫子愛らしおびき出す

玄孫やしゃごとなればいまさらに

肌、肉のことやわらかに

玄孫をとりて喰ふと云ふ

山伝説もありにけり


おら、全部持ってえってくんねがいと云ったのに

紅葉山に一風もふた風も吹いて

風にまぎれて山姥は

その衣の下の肌はもはや苔が生え

甲羅の如き背中には岩、山肌をのっけて

嗤うと耳まで裂ける口で玄孫をもらいに来る


紫蘇の実の青い青い実の醤油漬けがうまい塩梅になった

カズオちゃんとのことだが、

おらほんとにそっとしておいてもらいてがった


倉石智證