so bad・・・と云って僕の右肩の後ろを
誰だかわからないけれど外とツ国の人だ
若い日本人を連れている
紅葉の葉っぱを踏んでゆく
so badとは云っても
この季節だ
牡蠣や海鼠なまこや鮟肝も
冷たい潮に合うものがいいのかも知れない
二丁目から三丁目まで
角には松屋があって
so badは軽い口調であって
すぐに闇に消えて
あれは彼の口癖かも知れない
辻褄が合うではないか
誰もかれもがこんなはずではなかったのだ
不承不承そのサインを鵜呑みにし
やっとここまで歩いて来た
観自在菩薩
鬼の顔を踏んづける
踏んづけるたびに赤い顔色になったり
踏んづけるたびに青い顔色になったりする
お酉さまが過ぎたといふのに
おお、なんといふことだこの街は
手を組んで歩くというほどのこともない
正直になれない
ボージョレもただなんとなく過ぎてしまった
さうかうしてゐるうちに
おお、なんということだ
地面の下に顔がある
大いなる顔で私が歩く度に
蒼褪めたり笑ったり
ゆがんだり、別方向に引っ張られたりする
街区から人が消えてゆく
富久ロータリーに立てば
月が重さうに空にぶら下がり
コンビニにも松屋にも
人影が見えない
歩き出そうとして右肩の後ろから
so bad・・・
先に行けよ
追い越すなら追い越してくれたまへ
壮大な落下の季節が来る
まっ黄色になったトウカエデの葉が
舗道を埋め尽くしてゆく
落下の季節がやって来る
少しの木枯らしにさへたへ切れずに
トウカエデの街路樹はすべての黄葉を振り落とす
空中のすべてのお星さまが落っこちたみたいに
その時、
小さき子の手のひらのやうな葉っぱの
キラキラと落ちて落ち敷いて
歩道はまっ黄色に染まる
ちょうどその時
地から影のやうに抜け出て来た大男が
大急ぎで坂下の方に歩み去って行った
外ツ国の人の、
背丈の大きい影法師が
空に重たい月が貼りついて
so good…
その時になれば、きっと良くなるさ
少しの木枯らしにさへ・・・
ほんとにものすごいんだから。
倉石智證
「so bad・・・」は確かに聞こえた。
二丁目の公園の近く、
僕の歩く右肩のすぐ後ろで。