奸姦は人の言の葉

含羞はずかしく耳朶染まりゆく

攻め上がるすべてにつらし

脚首の鎖へ重く

荘園の棚の葡萄の

わくら葉の黄金に染まり

滲みゆく午後の曳航

黄金の季節とき過ぎてゆき

霜落ちて

朝に夕辺に

葉の落ちてゆく


畑に出れば風が迎へに来る

吹きさらして畝の間を縦横に巡り、流れ

土くれを否応なく枯れ渇かす

何億という落ち葉がその上にかぶさってゆくのだ


脚首の鎖へ重く

一陣の風が吹きやる

葉の病葉の紅葉の葉の

葉といふ葉は一斉に立ち上がり

葉といふ葉は一斉に舞い上がる

黒や茶や、赤やさまざまな色になって

一斉にわらわらと右から左へと走り去ってゆく

表土の

取り付くしまのない風の

かたへに

石垣の鎖へ冷へて

いまさらに顔色を喪しなふ


あはれあはれ,齢ふるに

根方に塩を振りて

.幹に酒振りかけて

チェーンソーの刃を当てがふ

五十年といふ幾星霜

人の骨のごとくに固まった枝枝がうねり

葡萄の棚は満ち満ちた


老夫は突然聾つんぼのふりをして

あるいはチェーンソーの激しい音に怖れおののいて

両の耳をおさえる

その樹齢を斃すていふ

含羞に思はず耳朶を押さえる

蔓枝は随所に切られ

言の葉は喉に貼りつく

攻め上がるすべてにつらく

枝枝は薪たきぎに落ちる


けふは葡萄の木の樹齢に別れを告げ

大樹を根に切り倒した

荘園は鎖に冷へて

老農夫はつんぼに落ちた

若い農夫たちは四の五の云はせず

冷たいチェーンソーの刃を何度も何度も蔓枝に当てた


おお、そぞろに寒きこの午後の光りよ

取り付くしまのなき風よ

その樹齢の霊をどこへ連れ出し

どこへさまよはさうとするのか

出で来よ、樹齢の魂よ、病葉の子鬼たちよ

奸姦は人の言の葉

含羞ずかしく耳朶染まりゆく

まったき自由に生きるといふ事もかなはず

これにて命は断ち切られた

重い刃が断頭台に落とされる

そのものすごき音の


寄る辺なき風の取り付くしまのなき

一陣の風が表土に吹き

あらかたの農具はすべて引き上げて

われもわれをも引き上げやうとするに

おお、この午後のそぞろに寒き光りよ

一斉に風が吹き上がれば

黒や茶や、赤やさまざまな色の落ち葉の

一斉に傍へへ

飛びしさり走り去ってゆく

くるくると走り出す

まるで風に背いて先を急ぐ旅人のやうに背を丸めて


倉石智證