久しぶりにまた湯沢に来ている。

部屋の窓から見ると、秋でもないのにあちこちの山肌に、

木々の茶色に変色しているのが目立つ。

今年もカシノナガキクイムシが猛威をふるっている。

おもに楢の樹林がことごとく犠牲になっているやうだ。

天気予報の通り4時くらいから雲が山に出てきたかと思ったら里にガスが下りてきて、

やがて雨になった。


11,8/13(土)晴れ、走り雨

暑し、暑しと葛の花、である・・・

葛の花瓦礫の山をものとせず

茗荷の子を山に探す。

未だ少し時季が早いようだった。

道端に木苺、ほかに月見草も黄色い花をつけはじめていた。


絡みつく行く先知れず葛の花

朝は水ナスを買う。

水ナスをまずは求めたのだがないとのことで代りにナシナスを買った。

他には枝豆の茎が付いたものや、

トウモロコシの茎がきれいな切り口のものなどみんな朝採りの野菜や果物ばかりであった。

館内放送の案内があると妻と娘はすぐにマンションの玄関へと下りていったのだった。


ごきょう擦り切れて寿外無葛の花


風熄んで葛の花ある暑さかな


林間の合宿の声ものあつし


日が陰って来ていくらか涼しくなったようだった。

蜩のひとつ消へゆくふたつかな


驟雨杉林消へゆく蜩の声


盆踊り大地踏みしめれば霊憩む

東北の方では仮設住宅の間でも。

なにしろ今年のお盆が近づいてくる。


1949年映画、「The Third Man」第三の男、である。

日本公開年度は1952年。

サンフランシスコ条約が発効。

日本は西側の一員として資本主義社会に組み込まれてゆく。


ウィーンは4分割されていた。

山門作家のホリー、マーチンス。

「欄干が動いた?」「すこしね」。

ハリー・ライムが死んだ。

交通事故ということだが。

ハリーはホリーの昔の悪遊び仲間。

なかでもホリーは筋金入りのチンピラだった。

ライムの葬式さ。

女。

墓地。

黒塗りの車がある。

「私はキャロウェイ、あんたは」

「マーチン、ホリー・マーチンだ」

黒い告別式のドレスの女。

車に乗り、車はバーへ。

三文作家、ホリー・マーチンス。

ウィーンは腐っていた。闇商人の存在。

死人に罪を被せるな。

ホリーは軍用ホテルに。電話がある。

カフェ、モーツアルトに出かける。

「ウィーンなら誰でも闇に関わっている」

くれぐれもあのことを、と気にしながら息を引き取った。

「ホリーに気をつけろ」。

ホリーはマークされ始める。

いったい誰に・・・

カフェ、モーツアルトでシュミットに会う。

「ヨゼフシュック劇場の女優です」

「ハリーの友達です」とホリー・マーチンは。

「シュミットさん。ドイツ語は?」

「ナッシング」

ホリーはシュミットに聞く。

「彼を愛してた?」

「アイドントノウ。でも今では死にたいわ」

───


光と影、戦争の影を背負った人々の姿が雨で濡れたやうなウィーンの街区に長い影を交差させる。


「成功の鍵は君次第だ」とハリー・ライムはホリーに云う。

二人は観覧車を下りて別れた。


駅。

煙を吐く列車。

近くの喫茶店のようなところで待ち合わせている。

シュミットが来て、

「嬉しいけど、変ね」

母国のチェコに帰れるようになったのだ。

椅子に座る。

「あなたもご出発?」

続けて、

「誰に聞いたの。少佐にまた会ったのね」

「何か隠しているわ。ソ連側は私の特別扱いに」

ホリー・マーチンは彼女の眼をじっと見つめながら、

「彼の逮捕に手を貸せといわれた」

「プワー・ハリー、ああ、なんてかわいそうな」

「彼には会いたくないわ、でも、ハリーは私の一部よ」

三文作家はごく生真面目に、でも真剣なまなざしでシュミットに聞く。

「なぜ、わたしたちは何時もかみ合わないんだろう」

「愛っですって・・・、鏡を見たら、犬の顔だわ」


ホリー・マーチンは病院へ行った。

水増しのペニシリンを注射された子どもがもう何人も犠牲に。

ぬいぐるみがむなしく置かれている。

ホリーは古い友人のハリー・ライムの逮捕に手を貸すことになった。

ぬれた街区。

あちこちに見張りが。

壁の蔭に立つ男。ライトが当たる。吐く息が白く映し出される。

一方でカフェのシーン。

音楽が鳴りひびく。

壁にライムの影が動く。

「ヘイ」。

シュミットが来る。

風船売りが風船を浮かせて来る。

見張りが「行け」と手で仕草。

面倒だとばかりに「一個でいい」

第三の音楽が鳴り響く。

白馬の馬車が突然暗がりの街区に現れて過ぎってゆく。

「誰に聞いた」とホリーはシュミットに。

「クルツよ。逮捕されたわ」

彼女は続ける。

「名前まで間抜けだわ、ホリーマーチン」

その時ドアが開いてハリー・ライムが店に飛び込むように肩を入れ掛けるが、

「ハリー、逃げて」とシュミットは叫んだ。

一瞬、何もかも悟ったという緊張した表情。

ハリー・ライム──第三の男が再び靴音だけ残して闇の中に逃げ去って行った。

呼子があちこちで鳴らされる。

石畳みの街に靴音だけがやけに激しく響く。

逃亡者と追跡者たちの靴音が入り乱れ、

下水道へ。

拳銃の反共音がマンホールの地下下水道に。

さまざま言語で、

「出で来い、袋のネズミだ」

ハリー・ライムは追い詰められて───

マンホールの鉄格子から突き出る指。

指がわななく。

銃声、水音、靴音。


「何かしてあげられないか」とホリー・マーチン。

「黙ってられないんだ」

長いショット、女は黙ってホリーの前を足早に過ぎて行く。

ホリーはたばこに火を点ける。


飴山 實

かなかなのどこかで地獄草紙かな

至るところ、生がくるりと反転する。

花浴びし風とゞくなり魚籠(びく)の底

残生やひと日は花を鋤きこんで

炎昼や皇居を走る影疎ら


11,8/15(月)晴れ

妻の実家、アルプス市にいる。

終戦記念日になった。

櫛形や雲簪かんざしにして雲もくもく

「かじける」という方言。

聞き洩らした。


死屍の蛆死して蝿蝿蝿蚊蚊蚊(桃心地)

玫瑰はまなすや沖に還らぬ島ありて(中村一志)


弔柱に頭を垂れるみなみなの還らぬものの帰らざるまま

先陣の尊い犠牲と御労苦にお答えすることだと思います。


倉石智證