つひに青の空から取ってきたくわりんを

玄関に置いてみる

またお会いしましたね

ところであなたが居なくなると本当に寂しくなる

すぐにくわりんは妖しい光りを放ちはじめ

ぼくをたじろがせる


ものの翳にいそぐ

ひょっとしたらと

地面の奥深くをのぞくとぼんやりとしていて

あなたの輪郭がそこで寛いでいる

寛いでいるやうに見えたものだが

すぐに気体のやうに消えて

どこかへ行ってしまった


地面の少し上に漂っている雲のやうなもののなかに

庭の端の秋海棠の濡れた花の下にでもと

かがんでみてはあちこちをうろうろするが

眼の隅へとのがれ

手の中から消え失せる


もっと深い、

もっと痛い、

息もできない、

何か足りない

吹きまはし

風のゆくへのどういふ風の

なほ行方の知れぬ、風それでも


つひにたへ切れなくなって青の空からくわりんを取って

玄関に置いてみた

たちまち黄のあやしい光を放ちはじめ

息がつまりさうな匂ひをそこから奥へと運ぶ

あなたが居なくなるととても寂しい

エンピツを落としてみる

机の下に廻り込む

絵を見ていたがやはり落ち着かなくて

つい額縁の後ろに廻ってみる

次から次へと懐かしかったもの

親しく触れ合っていたものか

いつのまにか手の中から消え失せ


部屋に行ってみた

がっかりするくらいに暦がざっくりと切り取られ

衣文掛の洋服もはずされ

そのあとが洋服の形に影になっていた

エーテルの匂ひだ

くわりんはすぐに尻のあたりから腐り始めて

でもそんなことはどうでもよくなって

あなたはぼくの顔ばかり見て笑ふ

地の奥深くにエーテルのやうなものにくるまって

地衣にくるまりぼんやりと笑みを浮かべ

でもそんなことはどうでもよくなって

あなたはぼくの顔ばかり見て笑ふ


秋になるとほんとに鼻の奥がつーんとして

何か悲しくなる

手にしていたものがどこかへ行ってしまった

たへ切れなくなってけふもくわりんを青の空からもぎ取る

「やあ、またお会いしましたね」

でも、あなたはすぐに立ち去る

もっと深い、

もっと痛い、

息もできない、

何か足りない

とりあへずくわりんを置いてはみたが

どうしやうもなくなって

やはりあなたに手紙を書いた

あなたが居なくなって

後悔している

とても寂しい───と。


倉石智證

相良の父上が逝去なさった。

夏に熱中症になり、そのまま入院ししていた。

心臓病は以前から。

10/16(日)、

享年92歳。

「で、最後はお会いできたのかい」

「おふくろと、弟が見守った」

「じゃあ、お一人じゃあなかったんだ」

さみしくはなかったね、と云うと、

「じゃあ、これから式なので」

と云ってTELは切れた。