おもひで───、

雨、雪渓、花、雲、びぃーる。

晴れ、カッコー、キョカキョク、うくいすも。

コシアブラ、根曲がり、ワラビ…天ぷら

びぃーる、日本酒、ウィスキーも。

酔へば

おもひで


空の雲雀ほどに仕合わせになる

地の蛙ほどに歌いたくなる

枝の蛇ほどに賢くなる

歓楽を尽くし

交接がこのやうにうれしく気持ちのいいものだとは


「亭主の好きな赤烏帽子」

butterfly exotica

蝶を追ひかけて

雑木の間や野辺、

谷のほの暗い深い底ゐから

ふいに湧いて出るやうに

また山の起伏にそって

如何にも自由に翔んでゆく

一瞬目の端にとらへたかと思ふと

やすやすと目のふちの右から左へと

ゆるらかに行きつ戻りつ


酔へば

おもひで

人もほとんど通はなくなった奥山の径の

シダが青々と生え始めるころ

川に沿って、

川の泡をかむ音を聞きながら

径を下ると、

木漏れ日の木の枝にこんもりとかたまって、

長々とからみついて絡まり合う蛇の交接の

頭がどこで雌雄のべつさへ分からず

ときたまずるりと動く気配の

川に沿ってシダやスカンポの径を

引き返すやうにまた登ってきたら

蛇は木の枝にまだ

長々と絡まり合って

雌雄のべつさへ分からない


「亭主の好きな赤烏帽子」

butterfly exotica

蝶を追ひかけてゆくと

蛇にも蛙にも

さまざまな昆虫や

鳥の鳴き声にも出会へる

緑の奥深く

静まり返って

みな虎視眈々と世帯を探す

緑の館にこのやうにして感情というものがほぐれてゆくと

おお、みななんとそれぞれに解きほぐれて正直になるのだらう

一切にゆだねて

時のまにまに

緑の葉ずれさへ忘れて

一切


びぃーる、日本酒、ウィスキーも。

酔へば

おもひで───

空の雲雀ほどに仕合わせになる

地の蛙ほどに歌いたくなる

枝の蛇ほどに賢くなる

歓楽を尽くし

交接がこのやうにうれしく気持ちのいいものだとは


倉石智證