ふれたきに
出あひたまへ
ふれたきに
よされ
あはだつほどに
はだへの
ふれたきに
あいつはFive Penniesで
オレは笛吹童子
あいつは婦人公論で
オレは家の光
家のまへの細い道をまっすぐに山へむかへば
炭焼きに犬がしたがふ
木の幹に鉈をぶち込む
肌へに
樹幹にとどまる傷の
みるみる透明な汁を滴らせ
蟻の
肌へにむらがりきて
地梨に
地蜂の巣に
這いつくばり
三拝する
祓ひたまへ
山深くに入れば
山祇やまつみの女人の血を厭ふ
ゴウロ山に母を岩下に落とした
祓ひたまへ
清水に幣ぬさをたて
石蕗つはぶきや笹の葉に水を掬ふ
母の
父ではない母の
大人たちは山兎を追ふ
おもしろいほどに追ひ立て
大人は木の枝に弓をつくり
大人は兎の皮を吊るンと剥いた
山の下草刈りの
面白いほどに
兎は追い立てられ
祓ひたまへ
山祇に供へるとき
縞蛇の香ばしく焼いたものも
祓ひたまへ
ゴウロ山の岩下に母を落とした
山の下草刈り
ゴウロ山の神の
母の、岩下へ
父ではない、母の
ただ産むばかりの母の
産褥の血の紅い腹帯
ただ産むばかりの
父の裸電球の下の
瞋恚しんに
赤銅に灼けて
朝からの酒
胴間声の、いずれ卓袱台を返す
母の
肥を担ぐ
藁づとを肥桶に落とし
雲雀翔ぶ畑中に
高く空をのぞみ
肩へに撓る天秤棒の
みんな忘れて
笑ふ
ふれたきに
蜥蜴や蛇の仔をふところに入れて
つめたきに
夏をしのいだ
雲雀は高く空に
母は忘れない
忘れられない
酸っぱさに
鼻の奥がツンと酸っぱさに
ふれたきに母に
ふれたきに
蒸れ熟れた黄金色の麦の穂に
瞋恚
心底怒れば
家のまへの真っ直ぐな道の
山に入り
山祇
若い木を目がけ
思い切り深く鉈を振り下ろす
冷たき岩肌に
ふれたきに
そばへ
しづかに
倉石智證
ゴウロ山には村有林があった。
父親が出られないときは子供や母親も駆り出された。
ゴウロ山には岩山があり、
薄暗い巻き径をたどれば洞に祠が祀ってあった。
母は、ふとそこから岩下に落ちた。
大人たちはウサギ狩りをして、笑いあった。
村にも我が家にも当たり前のように貧しさがあり、
子供の仕事は家の周りに山ほどあった。
ままならぬ家計や家運に父は瞋恚し、
朝から酒を喰らう・・・
「瞋恚」とは、仏教の三毒のひとつ、怒り、である。