ペリエの泡を見つめている

その人は微風のやうに流れ来てさっと隣りに座った

静かなモノの形の人と

「コンニチハ」

木陰の階段の下に座って少し喋った

そして、すぐに、小鳥のやうにチャットする

笑ひ合って、水を飲んで、見つめ合って、

別れて帰った


緑の木漏れ日のやうな日々が続く

TELをすると海へ行かないかと誘ふ

サイクリングし、ジョギングをし、太陽の下で遊ぶ

日焼け止めを塗るのを忘れた

肌に無数の水滴が浮いて来て

産毛に

たちまち汗になって流れた

サイクリングして、ジョギングをして太陽の下で遊ぶ

私のソレイユ


机の端に足をしたたかにぶつけた

心を消耗させる出来事があった

セザンヌの絵のやうに禁欲的に

傾いた小さな机の前で

互いにさびしい眼をして見つめ合ふ

林檎や他の果物ほどではないが

絵の中でひしめき合い

緑の木漏れ日の日々はほどけ

わたしたちはふざけ合ひ

涼しい色のサラダを作り

シャンパンを開け泡の

ベッドになだれ込んで互いにむさぼり合へば

こんなに楽なことはない


時はすばやく

時はそこここに

時は命を喰らふ

街区にボードレールの厳しい相貌がちらつきはじめ

歩けば歩くほど

緑の木漏れ日の日々に陰りが射し

やがて不意に辺り一面に秋の気配が漂ひ

おお、真昼なのに、眼の中を夜が彷徨ふ

真鍮のスプーンを置いて

鍵を渡してわたしは立ち上がる


木陰の階段の下で

あんなにも

静かなモノの形の人とお喋りをし

あんなにも笑ひ合って

緑の小瓶のモンペリエ

泡は少しも慰めにならず

わたしはとてもさびしい色になり

停留所でトラムを待ちながら

私はあなたに最後の言葉をかけた

とてもさびしいと


倉石智證

11,7/28(金)晴れ曇り

青山七恵さんのエッセー「さびしい」を読んで