11,1/22(土)晴れ

「戦争」(俳人・高田正子)

神棚にははの抱寝の小石凍つ(小原啄葉たくよう)

今日の句は句集「不動」(2010年刊)所収。

「戦地の兄の姿に似た石を川原から拾つてきて、母は毎晩抱寝してゐた」

と添え書きがある。

毎晩母にぬくめられていた石。

兄の姿に似ていても石なのだから、一晩中ぬくもらなかった日もあったろう。

石を懐に母は何を思っていたか。

その石が、母亡き今もこの世にあって、氷より冷えているのだ。

「初夢や自決の弾をひとりづつ」

「かぶさりて母が骨抱く稲埃いなぼこり

「兄嫁がまた藁塚へ泣きに行く」

生身の子を抱き締めた母と、抱き締められた子。

いにしえから繰り返されてきた母と子の至福のときがあった。

姿形がまさにそこにない、ということこそが

世界に訴へかける止むにやまない感情なのだ。


娘とかみさんと連れだって渋谷に映画を観に行く。

映画は「海炭市叙景」───

北海道は函館の架空の「海炭市」の物語であるが、

その函館の友人の息子が出演している、というわけだった。

冬青や雀せはしや墓の朝


冬雀卒塔婆を越へ石をこへ


齧られた林檎地下鉄冬の旅

地下鉄に乗って渋谷に向かう。

対面の席に座っている人たちのドアから右側に4人までがアップルのスマートフォンを覗きこんでいる。

齧られたアップル。


東急文化村から円山町の方にちょっと上がったところに、

コンクリート打ちっぱなしのビルの映画館があった。

円山町夜の疲れを冬の朝


夜の夢道に流れて裏宿り


海炭や人の命の雪蛍路面電車の窓灯りゆく

函館の友人の息子が映画「海炭市叙景」に出演。

渋谷に妻と娘をともなって久しぶりに出かけた。

映画館は東急文化村を左折、円山町のラブホの坂を少し上る。

コンクリート打ちぱなしの小じんまりしたビルの3階、

200人も入ればいっぱいになる映画館だった。

映画がほんとうに好きな人たちがやって来るのだ。

映画はそれぞれに問題や衝突、生活の芥を抱えた人たちの群像を丹念に追っていく。

原作者佐藤泰志は1990年、42歳で妻子を残して突然の自死。

映画の中でも明けて新年に、一人の若者が足を滑らせて、ということだが、

函館山の下山の途中海側に滑落、死亡した。

映画のシーンでは晴れ渡るという日はほとんどなく、

全編冬ざれて雪が降っているシーンも多い。

叙景に降る雪は人々の生活のうへにはかなくて、

散るほどに白く雪蛍のやうに明滅して消えてゆくのであった。


函館の雪の夜景のさみしかり山に登れば海迫りくる

存在の奥深くに根を張った焦り、不安。


星々を★の星座につなげれば母なき子にも星の浮かめり


雪に濡れ光るレールの路面にも人の渡りのさぶしへゆへの


電車から降り来る人の息白しレールの曲がり函館山の


映画を観終わった後、渋谷駅に向かう。

カラフルな靴下をいっぱい売っているお店があった。

妻と娘はお店の奥深くへと入って行った。

私は後ろ手にして、歩道にあふれんばかりに陳列されている靴下を眺めやる。

足指が手袋のやうに分かれている靴下がいくつも飾られている。

なかに親指に雪兎が刺繍してあるのがあった。

うさぎがこっちを小さな赤い目で見ている。

ファンシーな靴下指に雪兎


11,1/23(日)晴れ

時はめぐりまた新しきアイドルの雪よ林檎の香の如く降れ

22日、東京体育館で行われた卓球の全日本選手権で、

17歳の石川佳純選手(ミキハウスJSC)が女子シングルスで日本一に輝いた。

小学6年生で初出場して“愛ちゃん2世”と呼ばれた石川選手は

その福原愛選手(ANA)に準決勝で勝ち、22大会ぶりの高校生日本一に突き進んだ。

「優勝できると思っていなかった。まだ実感がない」と話し、

支えてくれた家族への感謝の気持ちを聞かれた途端に涙をあふれさせた。

この爽やかさ、───

愛ちゃんにもご苦労さまと云いたい。


「日経日曜俳壇・歌壇」

一机のみ一間の香る畳替(加藤若磯)

記憶より狭き校庭空つ風(小口泰與)

出ついでに寄りたる古書肆日短(藤川あきら)

短日のせいとばかりは言ひ切れず(木津和典)

初雀篠竹ぬけて来てゐたり(和城弘志)

雪の夜の闇白かりきみみずくは耳を欹そばだて雪折を聞く(三井次郎)


11,1/24(月)曇り

日々非凡なる出来事が身の回りに起こっている。

植物の成長の中で、微生物の呼吸の中で、アイロンをかける妻の手の内に、

すべての経済の事象の中に、

目に見えないエネルギーがもの凄いスピードで渦を巻いてわたしの周りを通り過ぎる。

けふ、幸徳秋水が死んだ。

自宅から歩いて6、7分のところでだ。

けふは久しぶりに冬ざれの天気、さみしく冷え渡る朝になった。

絞首台が立ち上がる。


与謝野晶子が歌で詠ったやうに、

しろき着物を着た12人の亡霊たちが、枕元の白い棺から立ちあがってくるのだ。

殖産興業、富国強兵の開発独裁の中央集権的国家は、

日清戦争で勝利し、日露戦争に向かおうとしていた。

ラフカディオ・ハーンが日本国民の自大増長を危ぶみ、日本人のナショナルを憂えた。

そのハーン先生もいま私の自宅から30秒もしないところにお住いになっていた。

近くのむかし瘤寺とよばれていた坂の上のお寺には立派な桜の大木が4、5本もあって、

それらの大木は枝を冬空広げて炯々とけふは輝いてゐる。


勝ち相撲明けて春くる胡坐かな

「(朝青龍関とは)肩を並べてやってきたから」───

それなりに感慨深いということだらうか。

「近づいてくれば燃えるもの、伝へたいものが出てくると思います」

と連続優勝6に対して、7連覇の朝青竜の記録に対して来場所の気持ちを淡々と語った。

千秋楽に第三子が授かった。

6連勝は私淑している大鵬関と並んだこともあって、

「今場所はいっそう思い出深い場所になった」と語った。

胡坐をかいた横綱の顔からはやはらかい満足そうな笑顔がこぼれた。


冬籠り春を待たるゝ人殺し

茨城県龍ヶ崎町、中島千佳さん、大学生(21歳)がされたまま放置

殺人罪で実の姉(22歳)と同居の二人の男性が逮捕された。

3人はインターネットで知り合って同居をはじめ、

そこに千佳さんが一緒に住むようになったらしい。

奈良県の両親からの仕送りのおカネを全員の生活費に充てて、

管理は同居の男性の一人がしていた。

千佳さんの死因は暴力による怪我が細菌によって化膿し、

放置されるままで衰弱と多機能不全とによって。

春は永遠に来ない。


トンボ玉和泉大阪おんなの子

若い中国人の女の子が一生懸命トンボ玉の作成に取り組んでいる。

ガスバーナーの炎が熱い。

中国人の女の子の名前は華玉、

まったくその名の通りの色珍しいトンボ玉作りなのであった。


ガラス玉演戯藤やら桜やらハートの形チョコ近づきぬ

さういへばもう巷ではバレンタインチョコの話題。

この工房の女の子はいともたやすく熱した赤いガラス棒からはーとの形を作り出した。


校門をでて一斉に落ち葉焚き


ある人は犬を錦に着せかけて


引く人の着膨れて犬着ぶくれて


モクレンの芽出でかけて銀ぎつね


鵯啼きぬ店閉めかけた電線に

女子医大に出かける。

AMBULATORY CARE CENTERけふも人の出入りで賑やかである。

予約を入れていないので 入ってすぐに右側の相談カウンターで説明を受ける。

「血痰が止まらないのですが」

「どのくらい」と聞かれたので、3カ月ほど、というと、

午後は予約受付をしていないので、明日の朝、

7時半から受け付け始めているのはご存知ですよね、

すぐに受付を済ませてください。

呼吸器系の方に、だということであった。

曙橋に出て、銀行を回って帰える。


ひんがしの去りぬるをわか鶏の風邪

宮崎では東国原知事がお辞めになったと思ったら

口蹄疫ではなく今度は鳥インフルエンザが猛威を。

なんということだ。

東は「ひんがし」と読む。


智笑