雄ちゃんへ

オリンピックだねへ。
人間はすごいもんだ。
弾よりも早く、ある人は“鳥”になった。

意識は「情報・信号」が変化したものだ。
太陽の光にだって情報があり、
葉のフィトクロムはその情報を転化して植物の光合成を促す。
その根本に在るのは成長したいという意識だ。
意識はいたるところに満ち満ちている。

心は化学反応に過ぎないのか。
感覚は当初心を素通りする(心身二元論)。
動物では生れ落ちた瞬間、臭いで母親の乳房を捜す。
感覚が先に立たないと生きてはいけない。
空腹中枢は脳のどこを刺激しているのだろうか。
快と不快が連続していくとやがてそれは扁桃体に記憶として蓄積していくようだ。
扁桃体のなかにそれぞれに対する無数の識別細胞が育っていくかのようだ。
笑顔、食べ物、声、体温・・・。
例えば、スイカは甘いから好き、といった「スイカ細胞」が専属される。
感覚は(目、耳、味、臭い)として扁桃体に入ってくる。
扁桃体は興奮してそれを視床下部に伝える。
扁桃体にはドーパミンやセロトニンやノルアドレナリン等が
入出力回路(神経投射路)している。

3歳の女の子が2歳の男の子を抱きかかえてダンスをしている。
男の子もまんざらではなさそうで
女の子の背中にやっとのことという感じに両腕を回している。
ふとしたことで女の子と男の子はダンスの途中で床に倒れてしまった。
女の子が上になってちょっとの間見つめあう。
女の子は先に立ち上がって男の児を抱き起こす。
音楽はそのままだ。
女の子は再び男の子を腕の中に踊りだそうとする。
すると男の子は黙ったまま女の子を腕で押しやった。
女の子はもう一度男の子に踊ろうよとせまるが、
男の子は後ずさりしながら両腕を前に出して拒んだ。
女の子はふいに泣き出した。
両手を顔に押し当てて泣き出している女の子を見て、
男の子は困ったように指しゃぶりをはじめる。
女の子は泣いている指の間から男の子を見やり、
また近寄って踊りましょ、と手を引っ張るが、
男の子は指をしゃぶったまま後しざりするばかり、
ついに女の子は大声を出して本格的に泣き始めるのだった。

感情を起こすのは、大脳辺縁系と呼ばれる場所で、
こちらにはもう次々と湧き上がるような感情が生まれてくる。
たとえば、怖い、苦しい、うれしいなど。

さて、男の子も女の子も大きくなった。
バンクーバーオリンピックが始まった。
目は脳が外部に露出したものである。
脳が唯一外部に露出している部位が目である。

アルペン滑降のアクセル・ルンド・スヴィンダル選手は
滑降競技の最中に大転倒をし意識を失うほどの大怪我してヘリコプターで運ばれた。
彼はどのようにしてその恐怖心を克服したか。
スヴィンダル選手は復帰後、最初から同じコースで練習を開始した。
MRIで図ると、サーモグラフィーは側頭連合野と頭頂連合野が反応を示している。
2分を超えるコースで瞬きは1度か2度しかしていない。
ものすごい集中度なのだ。
事故を起こした斜面をあえてそれ以上のジャンプで超えて行った。
ドーパミンが扁桃体を超えて行ったのだった。

皆川賢太郎は両膝を痛めてしまった。
ワールドカップの選手のなかで誰よりも早く短いカービングスキーを取り入れたのは賢太郎だ。
ポールの間を最短距離で滑るためには斜面におけるあえてスキーのドリフト走行が優位である。
しかし、ドリフト操作は思いがけない負荷を賢太郎の膝にかけた。
一度は4位の成績まで躍り出たのに膝の痛みやトラウマに、
今ではまた30位以下に成績は沈み込んだ。
完走することと、ゴールまでの斜面におけるスキーの表現力云々、と賢太郎は云ふ。
メンタルとは集中とリラックスの同時性のこと。
物語る(表現)ではなく反応・反射だけの運動に専念すること、
所謂全く悩に考える隙を与えないことがベストであることは分かっているのだが・・・。
トラウマとは扁桃体の記憶である。

スポーツ選手は必ず「メンタル」を云ふ。
上村選手も監督のヤンネさんも、だんなさんの賢太郎選手もだ。
板の上にうまくのって、髪の毛一本にまで神経を集中させて一挙に・・・。
4位になった。またメダルに届かなかった。
上村さんは涙にくれる。
長い途方もない練習や、周りのさまざまな人々の思いや顔が浮んでは消える。

「情動」が起こらない場合=感受性が弱いということだ。
複雑系環境は→複雑系な情動を育てる。
涙もろいとは=大脳皮質よりも辺縁系が上回ることで、
上村選手は大脳前頭葉では抑えようとするのだが、扁桃体がそれを許さない。
猪苗代より数十メートル滑降距離が伸ばされ、
逆に平均斜度は猪苗代よりも数度緩くなった。
欧米の選手は体重が60㌔を超えるが上村選手は50㌔弱。
物理的に斜面を落下するには不利な条件だった。
集中リラックス同時にできること――。
トップアスリートの条件である。
スタート地点でライトアップされた上村選手の顔がアップになる。
顔面蒼白である。
アドレナリン系が交感神経を刺激し、
血流が顔から血の気が引いて、手足の末端までの筋肉系へと送られた。

「やったー」という瞬間はドーパミンの報酬予測誤差によってなされる。
一流選手はそれが自分で分かる。
上村選手にはドーパミンが激しく発火、バクハツする喜びの表情はなかった。
後走の選手が次々にタイムを塗り替えていく。

(以下webより)
幼児や子ども時代/「おなかがすいた」「さみしい」「痛い」などです。
大人になるに従って「悲しい」「うれしい」「切ない」「辛い」など他に感動に対しても。
泣くのは脳の命令。
■自律神経に指示が出て、交感神経と副交感神経を作用させます。
交感神経は、身体を興奮させる働きがあります。
副交感神経は、身体を落ち着かせる働きがあります。
怒ったとき、悲しいときは交感神経が働きます。
精神的にピリピリと追い詰めるような刺激が、全身をかけめぐります。
その結果、搾り出すように涙腺に指令がいきます。
逆に感動したときやうれしいときは副交感神経が働きます。
リラックスして、涙腺に指令がいきます。
加えて、それを、「ある程度」制御するのが大脳皮質。
特に前頭前野は人間ならではの感情をつかさどる場所で、
生まれた感情をどう扱うのが一番いいのかを選んで行動させる場所です。
涙をガマンするとき、また感動したキモチを伝えるときに、
この部分が働いて、涙の制御をします。

どの人もスノー驚楽バンクーバー男子滑降スイスのデファゴ
デファゴ選手は、32歳と136日、滑降史上で最年長で優勝。
2位は昨年のW杯総合王者ノルウェーのアクセル・スピンダルである。
わずか=0.07秒差
3位米国のミラーはそれにわずか=0.04秒遅れた。
会心の滑りでスーパー大回転のゴールを切ったスピンダルは
雄叫びを上げて喜びをバクハツさせる。
狂ったように喜んでいたのはノルウェーのスキーの先輩、英雄・オーモット。
恐れを知らず真骨頂、スピンダルは終盤の計測地点で時速=114.86㌔を記録した。
この人たちの目玉は、
この人たちの脳は一体どこを感知し、どこを見ているというのか。

情報処理に関して人は「反応」、昆虫は「反射」。
ハチの脳が障害物を検知して回避行動を始めるまではわずか=0.01秒。
人間より=10倍も速い。
機敏に行動できるのは、人と違って感情などが入り交じらず、
目に飛び込んできた情報に瞬時に反応するからだ。
■哺乳類は神経系を高度に発達させ、複雑な情報処理の仕組みを獲得した。
一方、昆虫は外からの刺激に瞬時に反応して筋肉を動かす「反射」など、
単純な仕組みに磨きをかけてきた。
(09,4/5日経)

前頭前野の一番の機能である首尾一貫した思考の流れを乱=「パニックである。
回路を短縮・省略する→「無意識」ということである。
(以下web「第1章第2節 不安と脳科学」)
生命の危険が間近に迫っている非常事態のときには、
大脳辺縁系以下の下位の脳は、かなり劇的な方法を採ります。
前頭前野が通常の判断をして行動に移すまでの長い時間を短縮するために、
複雑な処理過程を極端にいてしまうのです。
たとえば視覚情報の処理では、
必要ない色の認識や人物の判定、
見えた物体がどんなものなのかといった高次の推論などはかれます。
また、前頭前野(=意識)で行う高次の判断も必要ないため、
神経ホルモンによって活性を極度にとします
■このとき意識上は、強い恐怖と不安に支配されて、
なにも考えられないような状態になっています。
もちろん前頭前野も下位の脳をコントロールしようとしますが、
情動のせいで活性を落とされ、肝心の思考能力を奪われているため、
ほぼ無意識状態になってしまいます。
先ほど少しお話しした、ボールが突然目の前に飛んできたり、
自動車が高スピードで近づいてきたりした場合の行動は、
このような処理に基づいた“とっさ”の無意識的行動なのです。

五感の情報の認識よりも先に情動発生処理が終わっている。
蛇を見た瞬間に退避行動に移る。
人間の前頭前野(=意識)は、情動に強く左右され、
身体反応は前頭前野(=意識)に先行する。
(以下web「第1章第2節 不安と脳科学」)
意識の座である前頭前野では、
いつでも情動の方を先に意識することになります。
たとえば、屋内の暗がりのなか、誰もいないはずなのに、
すぐ近くで人影が動いたような気がしたとします。
すぐに大脳辺縁系は、恐怖や不安の情動発生処理をし、交感神経が興奮します。
血圧が上昇すると同時に、ドキッとして心臓の鼓動が早くなります。
さらに筋肉が緊張し、逃げ出す体勢を整えます。
そうした恐怖や不安の情動発生と身体反応のあと、
大脳新皮質のきめ細かな分析処理が終わり、
前頭前野の判断が済みます。
そして、やっと人影の正体が、大きな鏡に映った自分自身の姿だったと認識でき、
「なーんだ」となるわけです。

斜面やリンクは強力な恐怖そのものである。
湧き上がる歓声も観客のうごめきも不安と恐怖の源泉である。
そして、しかし不安と恐怖、つまり緊張こそがアスリートに力を与えられるのだ。
脳は興奮性シナプスによって相互接続している。
線条体尾状核が大脳皮質全体の活動を計測し、
しきみとなる電位制御しているらしい。
「恐怖」は“逃げる”本能系。
「怒り」は“戦う”闘争本能系。
「不安」は「恐怖」や「怒り」に変異する前の駆動物質。
緊張や不安を「怒り」に、闘争本能に火をつけ、パワーに変えたものが勝利者となる。
恐怖や不安に駆られたものが、バランスを欠いて転倒するのだ。

しきみとなる電位の制御が外された。

ものすごいパワーが“ドラゴンボールZ”する。

エネルギーの状態が変わり、どこかでブレークスルーが起きた。

自分自身を突き破ったパワーに勝利者は感動のあまり雄叫びを上げる。


スイスのAMMANNは空を翔んで鳥になった。

鳥の脳は辺縁系どまりで、その上に発達した大脳皮質はない。
辺縁系の主要な神経伝達物質の一つ、
快感と深い関わりを持つドーパミンはA-10神経と呼ばれる神経で運ばれる。
A-10神経は視床下部扁桃体などを通り、前頭葉に終末している。

” I feel totally peaceful.
I have lived all my life to get here,
and I have come home.
I am complete.”
(有機合成化学者Alexander Shulgin―webより )
たまらない平穏で充実した感覚に満たされるとともに、
まるで自宅に帰ってきたときのような「安堵感」を感じている・・・。
ヒトは自分のテリトリーを持っていて、
そこに帰って来たとき非常にリラックスした気分になるという。
AMMANNは一瞬、このままずっと飛んでいてもいいんだ、
という気分にときどき襲われるという。
翔びながら鳥になった。
そこが彼の領分になったのだ。
大量のドーパミンが扁桃体を潤し、前頭葉に終末した。

智笑
夕刊が届いた(2/22)。
アルペン男子スーパー複合で、
滑降で1位だったスピンダルが旗門に足を引っ掛けてコースアウト。
ミラー(米国)は前半滑降の7位から後半回転で巻き返した。
ミラーは約6000人の声援に応えた。
「誰よりも楽しんで滑った少年時代に戻ったような感じだ。
そういう気分になれたのがうれしい」
みんな自分の領分にかへってゆく。