浅草岳09,5/30(土)

センベイの香の車なり緑燃ゆ

娘がセンベイの音心地よく車の中でポリポリ始めた。

狭い車の中だ、あっという間にセンベイの薫りで一杯になった。

石打よりむこう小出のほうに向かってもうすっかり田植が済んでいる。

魚沼産のコシヒカリである。農夫が早々と田んぼに出てゐる。

六日町あたりでは右手の奥に、雲にまみれた八海山が岳峰に雪を残してすっくと立っているのが眼に入る。

小出インターを下りいったん国道17号線に出る。

それからしばらく行ってから右折、入広瀬の方に向う。

R252は長閑な道である。交通量もそれほど多くなく、

道路の端々にはその季節季節の花々がよく丹精されて、運転の目を和ませてくれる。

走り行くたびにフランス小菊の花群が風にあおられ揺れる。

見事な鉄線の花があり、水仙が列を作って植えられていたりした。

それに奥只見線だ。

線路は小出に入ってから付かず離れずといった具合に道路と並行して走っている。

やがて入広瀬を越えてからは次第に道路の両側もときに狭隘になり、

ほとんど線路とくっ付きそうに走るところもある。

「乗ってみたい電車だわね」「おうさ、有名な列車だね」

「今の季節もいいが、あきの紅葉、冬の雪の季節もしんしんとしていい」

わたしは娘に向って説明する。

やがて大白川の駅に出、車は左に進入する。

直進すれば叶津から会津へと続く。


守門の部落を過ぎ道は大きくワインディングして急坂を上ると、

人造湖を右に見るいったんは平坦な道となり、湖沿いに車は走ることになる。

真っ赤な鉄橋のアーチを潜りそれからしばらく行くと大自然館の建物が見えてくる。

その節は大きな温泉レジャー施設だったのだが、今は風雨に色あせ見る影もない。

さて残雪の峰峰が押し迫りいよいよ山間の道に入っていく。

道路はますますタイトにカーブを描き、

一度も擦れちがうこともなかったのに車が道端に何台かとめられていたりする。

釣り行は朝が早いのだ。

時々に「山菜きのこ採りを禁ず」と看板があるが、あれらはどうやら山菜採りの人たちの車かもしれない。

舗装が切れて車は狭い山道をスプリングをきしませて進む。

駐車場に着いた。

6:50マンション発-登山駐車場着8:15

天気は少し晴れ間が出たり薄曇になったりである。

車は十四五台程度と、ずいぶん空いている。

うぐひすの声聞き紐を結ぶかな

さて出発8:20


「亭主の好きな赤烏帽子」-虫スプレー
虫スプレー


鶯の声聞き、藪椿の赤を藪の中に、こしあぶらを摘み摘みまだなだらかな登山道を

祓い川に(8:49)。水かさはいつにも増して多く、残雪が勢いよく溶け出しているのが分かる。

妻が先頭に娘が続く。水流に石を選びながら少し上流の対岸に登る。

すぐ上り口の左手前にショウジョバカマ。


「亭主の好きな赤烏帽子」-ショウジョウバカマ

「少々莫迦な」と娘にふざける妻であった。

藪漕いで椿赤になり


「亭主の好きな赤烏帽子」-藪椿

二つ目の小さい流れを渡るとブナの大木の林に入る。


「亭主の好きな赤烏帽子」-ぶな

いよいよ登山道は上りになる。

林の脇に最初の残雪が黒く汚れて横たわっている。

盛んに虫が飛び始める。(蚋)ぶよともぶとともまくなぎとも、

まくなぎを連れて水辺に出でにけり.(生田恵美子)

これらの虫虫を引き連れてこれから汗をかきかき登ることとなるのだ。

「いい山だねへ」とわたしは云ふ。「ほんとうにゆたかな山だ」とつけ加へる。

山菜は採ろうと思へばその時々に大量にあてがってくれるのだ。

蕗の臺、こしあぶら、たらの芽、あけびの蔓、根曲がり筍、ミズ、山独活・・・、

地味がいいんたねへ、土の力が強いんだ。雪が一杯降る、土が湿りを蓄える、

虫が一杯湧き出る、蛙も鳴き出せば、へびさんもにょろにょろ、

川には魚さんも大量に湧き出ることだらう。

鶯の声にホトトギスの声が交じり始めた。

「キョカキョク」である。威嚇するように「キョクキョクキョク」と語尾を少し低音に濁らせて続ける。

一度だけカッコウの声も遠くに聞こえたような気もする。

イワカガミの紅色の花穂をちょくちょく眼にしながら右にトラバースし少し直登する、

「ア ヴィエルト」である。さっと視界が広がった。

振り返ると守門岳が残雪を頂に、春の霞に蒼く眼に飛び込んできた。

残雪やあれが守門だイワカガミ9:29


「亭主の好きな赤烏帽子」-イワカガミ

「亭主の好きな赤烏帽子」-守門岳

「ア ヴィエルト」の左の斜面にウルイが浅緑に剣形の葉を芽吹かせてゐた。

少しお山の神様にいただいて、また妻と娘のあとを追う。

まだブナの林は続いている。

花はイワカガミの紅色、ツバメオモトの可憐な白、タムシバの不思議な白い花弁は云はずもがな──。


「亭主の好きな赤烏帽子」-ツバメオモト

先に行った妻が壮年の男性と立ち話をしていた。

「カタクリ・・・」と言葉の端が聞こえたような気がした。

するとすぐに足元にカタクリが咲いているのだった。

プロっぽいおじさんだなぁ。登山靴の上の足首にスパッツを履き、ストックをついて格好いい。

とにかくけふはカタクリがいいらしいということのようだった。

挨拶を交わし登って行くと、おお、これはなんとしたことか。

径の両側はカタクリ、カタクリ、またカタクリではないか。

登山道は径にえぐれている。

下から斜面を上がっていくと腰をかがめるとちょうどいい按配に眼に楽しむことができる。

お山の高度の所為だらうか、花弁は紅色がったものはなくみなどちらかといふと紫がっていた。

濃い紫色に沈んでいるものさへある。

花弁はどれ一つとっても同じ形のものはなく、陽気にダンスダンス、ダンス。

カタクリやどの花ひらも風の相


「亭主の好きな赤烏帽子」-カタクリ1 「亭主の好きな赤烏帽子」-カタクリ2

「亭主の好きな赤烏帽子」-カタクリ3

「亭主の好きな赤烏帽子」-カタクリ4

やがて足元を水が流れてくる。

両脇は熊笹が丈高く、低い雑木も混じる。

陽は時に頭上に暑く、汗びっしょりになってくる。

ブトは相変わらず顔にまとわりつきうるさく、帽子のつばから汗が滴り落ちた。

妻も娘ももう冗談も云はず、ただ黙ったまま登って行く。

あたりはうぐひすの声で満たされていく(10:12)。

幸せな気分だ。それに水が流れていくということはそろそろ頂上にも近い。

妻は足元の根曲がり筍をぽきっと折った。


分岐点(10:34)左へ頂上、右へ前山からサクラソネへ。

ブト連れて木道にまで春の山」一安心である。

今年は例年より雪が多い。雪渓がどんと目の前に広がる。

妻と娘を促して雪渓を上り始める。

左の方に滑り落ちたら限りなく危ないものなぁ。

こうしてこう、爪先を雪に打ち付けるように足場を確保して一歩一歩、

さうさう足は横に階段状に登る。


「亭主の好きな赤烏帽子」-雪渓 「亭主の好きな赤烏帽子」-雪渓2

尾根に出た。風がやっぱり気持ちがいい。

雪渓の尾根から木道に下りる。あとは頂上を目指すばかりとなった。

またうぐひすの鳴き交わす声がかまびすしくなった。

木道やうぐひす右に左にす

昼食を楽しんでいる男性二人が木道の脇にしつらえられたバルコニーに。

「こんにちワー」の挨拶を送り最後の直登にかかる。

めずらしくけふ初めてのシラネアオイ一輪にお目にかかる。

シラネアオイの青い紫。


「亭主の好きな赤烏帽子」-シラネアオイ

頂上に到着(10:58)。

シラネアオイは、頂上にもう一輪。キンバイの黄色が可憐にまぶしい。


「亭主の好きな赤烏帽子」-キンバイ
「亭主の好きな赤烏帽子」-田子倉湖

田之倉湖がガスの途切れに見える。残念だが雲が少しずつ出てきたやうだ。

右手の鬼面山は絶壁も荒々しく横長に帯を引いて見えるが、

晴れた日にその先に遠く見えるはずの越後駒ケ岳などは雲の中に眼にすることはできない。

下山して先ほどのバルコニーで昼食とする。

お山に向ってビールで乾杯。

鶏の唐揚、必携のゆで卵、鰯と根曲がり筍の和え物、

胡瓜と新玉ねぎの味噌、ソーセージとおにぎりは鮭と明太子。


マクナギやベールの網も間に合はず

妻はこの浅草岳のためにと網目のベール付きの帽子を買った。

なかなか重宝したやうだが、敵もさるもの、やっぱり食われてしまった。

ランチの時は、さすがに外す。


昼食の間中やや晴れていたのだが、

それも持ちきれず叶津の方面から怪しげな雲が次第に流れ込んでくる。

やがて最初のかすかなポツリが顔にきた、

ああなんてちょうどよかったのだらう。

11:55)昼食を畳んで下山とする。

雪渓の尾根を行き、しばらくして木道の階段を下り始めるころ本格的に雨足がしげくなってきた。

「ああ、残念」と下から登って来た男性が云う。

みな雨合羽を出して上だけはおった。

さておいて、左方面には絶景の斑雪があわだつやうな真緑に色々な形に切り取られて遠望される。

斑雪はだれゆき抹茶アイスと妻が云ひ

「亭主の好きな赤烏帽子」-抹茶アイス 「亭主の好きな赤烏帽子」-ウメバチソウ

前山にもう一度登り、ここにはウメバチソウ、ここからはもう下山するばかりになる。

花は雨に濡れたタムシバが、ムシカリが新緑の道々をしらしらと飾る。

時にタムシバの白い花々とその淡いにミツバツツジの鮮やかなピンクが混じり

妻と娘を先に行かせてしばらく足をとどめる。


「亭主の好きな赤烏帽子」-タムシバ 「亭主の好きな赤烏帽子」-ムシカリ

「亭主の好きな赤烏帽子」-ツツジ 「亭主の好きな赤烏帽子」-イワウチワ

潅木がいつしかブナの林になり代わるころイワウチワの淡いピンクが足元を明るめた。

イワウチワ連れ添ふものもありにけり

(13:47)サクラソネ着。娘、妻、わたしの順でカリヨンを鳴らす。

合掌してお山の神様にお礼をする。

もうあとは余力だ。雪崩れて雪渓となって残っている林道をゴールの駐車場に向う。

柳絮がふわふわ飛んでゐる。

林道は枝折れや雪の下に敷かれた木々が通行をときに邪魔をする。

いつもならもう少しして残雪が溶けるころ、

山の斜面から流れてくるいくつもの小さな滝の際に、ミズが叢生するはずだった。

おおきな雪渓の塊が谷沿いにずり落ちて道を完全にふさげていた。


「亭主の好きな赤烏帽子」-雪渓崩落

私がまた先頭に立ちトラバースする。野趣があっていいねへ。

2000,6/18日、救護遭難4名の顕彰碑がある。

山菜採りに入って遭難に遭った人たちの救助に向った警察や消防隊員や民宿の方は、

あっという間に雪崩てきた雪の下敷きになってしまった。

隣に流れる谷川の水音を聞き、合掌してまた歩きだす。

もうゴールは間近になる。

空は明るいが、雨が再びぽつぽつとやってきた。

駐車場着(14:30)お疲れさまでした。


身も心も軽やかになって山道をワインディングロード、

守門には大雪のため道路道路にはスノーシェッドが造られている。

そのスノーシェッドに燕が舞い込んでくる。

守門にはスノーシェッドに燕の巣

道路わきにはいまが盛りと空木が紅色を揺らしていた。