08,12/11(木)晴れ

そのマンションの広場を鷹揚に横切っていくご婦人がゐる。

着ているお洋服はいかにもエクセレントだ。


スイーツ  陽だまりの歩きながらのスイーツか私はそれを我慢できない

太った中年の女性が何か甘いものを口にゆったりと広場を横切っていく。


冬スミレ  医の前のバス停やさし冬菫

女子医の前のバス停にささやかに菫が植えられていて、心が和む。


「あっ、ひどいですね。ちょっと蒼くなってますね」

と過日の採血の痕が青あざになっているのを見て、

「今日は少しはずしましょう。同じ場所だとせっかく癒りかけたところがいじめられますから。

少し細い針を今日は使いましょう」

「親指をぎゅっと中に、はい、大丈夫ですよ、きれいに糸のように出てますね、いいですよ」

「はい、あと二本」

「こんなに痛い思いをした日にはなにか自分にご褒美を上げたい気分になりますよね」

「これで体の中のことが全部分かりますよ、はい、きっちり抑えてください」

丸いパッチを注射のあとに貼る。

最初の5分、きっちり抑えていると青あざができにくいのだそうだ。

きびきびてきぱきの人はほんたうにきれいに見えるものである。


車椅子   車椅子静かにX'mas ソング流る


乳母車   診断の了りて父母に乳母車安堵かすかに冬の微笑み

乳母車の赤ちゃんは眠っている。若いお父さんが乳母車を押し、お母さんがその脇を行く。


小児     行儀よく待合にゐて日のうつらいい子でゐるよ叱らないでね

Pediatric Surgery 小児外科の脇には幼児の遊び場がしつらえてある。

丸、三角、四角、の赤青黄色緑の色とりどりの。小児の泣く声がとほくに聞こえる。

子供の泣く声はいやだねへ。幼児賀春を待ち望む。


老夫婦   待合に老ひの夫婦の長いこと時に声かけもだす冬の日

品のいい老夫婦が静かにベンチに腰を下ろして待ってゐる。

時に声をかけるのはおばあちゃんの方からだ。それからまた長いこと沈黙が続く。


レントゲン のゴマ取るの忘れてレントゲン大きく息をハイ止めてみて

下降結腸に沿って不整形な石灰化が見られる。

長いこと生きていると体の中にも様々な変化が現れるものなのだ。


妻      膨らんだモノが減るのはしょうがない妻を観ていてつくづく思ふ

いや、最近の妻は、太りっぱなしだ。このままいって、この先はどうなるんだらう。


バイアス  バイアスは人の思惑いちいちは感じぬことよ冬の水仙

思惑、欲望ばかりが渦を巻いている。

ありがたいを通さなくっちゃね

と下関の魚市場の75歳、現役のおばあちゃんが云っているではないか。

膨らんだものが減るのは一向に構わないが、

さらに、実体経済を傷つけ始めた。


★身体・原子の振舞い、あるいは人間社会

私たちの身体は、脳細胞、肝細胞、皮膚細胞という具合に専門化している。

けれども、どの細胞も、もとから自分の天命を知っていたわけではない。

DNAに細胞別の命令が書き込まれていたわけでもない。

たった一つの受精卵として出発した細胞は、2分裂、4分裂、8分裂と倍々に増えていくが、

最初のうち細胞はどれもまったく無個性で平等である。

しかし、細胞数がある程度増えると、細胞は互いに接触し、情報を交換しあう。

どんな会話が交わされているのだろう。

細胞たちはコミュニケーションを通して、相互補完的に自分の役割を決めていくのである。

つまり自分のあり方は社会性に依存する。

(福岡伸一・分子生物学者08,12/11日経)

一方で、生物物理学から説明する「生物の自己組織化」。

物理の手法では、原子間の熱運動が活発なら、好き勝手(ランダム)に動いているのに、

温度が下がってくると相互作用が効き出して集団行動を起こす。

例えば、鉄やニッケルの原子の集まりは、

ある温度より低くなると磁極の向きが揃って、急に磁石になる。

(「湯川秀樹先生について」坂東昌子・物理学者08,12/11日経)

「おまへはおまえの切符をしっかりもっておいで。

 そして一しんに勉強しなけぁいけない」

(宮沢賢治、天海さん「ブログ」より)

人には、人それぞれの勿体がある、ということだ。