08,11/22(土)晴れのち小雨
北信濃の方言
まこちゃんは、わたしの姉の幼少からの呼び名だ。
少しひょうきん者だが、久しぶりに会って話してみると、
どうしてどうして大変な故郷の生き字引。
そして、その彼女の記憶の古層にそのまま昔ながらの言の葉が
まるで馴染んだ家具のように、部屋の空気のように、
うごめき、漂っていた。
以下、少し乱雑だが書き留めたものを少々――
「ガータクだったなあ」(どっかすッぽ抜けている人)
「かんからかんかんからかん、おらのちづ子を誰かまた」
カンカラじぃさんはあそこの空気だった。
じぃさんは孫のちづちゃんをねんねこでおぶい、脚を交互にまるで缶蹴りをするやうな
仕草で、「かんからかんかんからかん」と独特の節回しで唄っていた。
「かす臭い」「かすくせかったなあ」(生意気)
「えぼつってばかりいた。飯山のゑびす講でなんか買ってくれなかったのでえぼつった。
父に怒られて千曲川の橋の上に出たら、知らないおじさんが自転車に乗せてくれて
自宅まで送ってくれた。炬燵に首まで潜って尻を温めていた」
小学4年生のころとか。
えぼつって(ふくれ面して)
「ぼごんときなあ、兄なんか調子よくてだれんとこへもいった。おらわにてなあ、
母に抱かれて人が通るたびに「ばか、ばぁか」と云ったらしい」
ぼご(赤ちゃん)わにわに(赤ちゃんが人見知りして嫌がり泣くこと)
「しらっくれてんど、戸倉上山田の山の上なんかおっきいちんちんが飾ってあってなあ、
女のあれもあったど。全くしらっくれてんだ」
しらっくれて(しらばっくれて、に近いか)
「そんなことせうなってせってんのにショウシイど」「おら麻生へえ嫌いになった」
せう(云う)しょうしい(恥ずかしい)
「酒なんかやだやだ、飲むなら身を滅ぼすまで呑んでくれや」
「菖蒲ばたけこーねんぼゆうべおがんでねやんしょねやんしょ」
「こーねんぼ」は束ねるらしい。菖蒲やもぐさなど薫りのきついものを束ねて、
あるいは軒先に、そしてお風呂に浮かべて、魔を除け、男子の尚武を願った。
地を叩き、へび、もぐらの類を驚かせ、退散させ、豊作、豊穣を願った。
故郷は不思議に満ちていた。地霊、精霊、いろいろな気が川から這い上がり、空へと、
村落の背後、扇状地を上り詰めて山の懐、頂上へと彷徨い吹き上がってゐた。
おばん沢という深い谷が村はずれにあった。水が底ゐを流れ、草深く、
なにか村人に嫌われ、誰もあんまり近づかない沢だった。
