08,10/25(土)晴れたり曇ったり


鯖      鯖買うて夫つまに食わせむ菊の花菊の花を添えて。妻は自分がアレルギー。 


無聊     髭あたる秋の無聊をなぐさめむ姪っ子からのメール。人は生き難いものだ。薬漬け。


菊の花   新聞のポストに音の菊の花聞くのはな。いまポストに。


糸電話   糸電話どの子にかける秋深し秋は無聊、無聊・・・



マリア・ジョアンナ・ピレシュ「スーパーピアノレッスン」

「欲しては駄目よ、願うのよ」


 子供に教えている。男児だ。小学生高学年だろうか。

前髪が時たま額に降りかかる。眼を閉じて弾く。モーツアルトである。

「もっと歌って、歌うようにね」「わかるでしょ、モーツアルト」「ブリーズ(息をして)、息をして」

少年の後ろに回る。背を叩く、揉みほぐすようにして、「叩いては駄目よ」

「ほら右手が死んでいる。ぶら下がっているだけよ」「左手があるだけ」

「そう、もっとボディを感じさせて。強くではなく、ないけれど、ほら、そこにあるかのように」

「スタッカートは駄目よ、ボディ」「歌うのよ。歌って。モーツアルト…」「音を開くの」。

 庭に面した側には男児のマモンだろうか、ソファに腰をかけ男児の方に向かっている。

あごに手を添えて、考えるかのように注意深く見守っている。

その夫人の隣にはもう一人のママがいる。二人とも熱心に

ピレシュの言葉を、注意を、そして動きを追っている。

ピレシュは動く。歩みだす。ピアノの方に、回り込み、

ときにもどかしそうに、ときにもっと忍耐強く。弾いて見せたりもする。

「分かるでしょう」「そう、いいわ」。

男児はでも緊張のあまり、それはありありと感じられるのだが、

鍵盤の上で自信をなくし、迷子のように途方にくれたりする。

 少年の背後から声がかかった。「ほら途切れてしまうんだ」。

大学生くらいの青年が言う。「前にもあったね。途中でと切れてしまう」。

ピレシュがそちらの方に視線を移す。男児の背後、

その壁際にと同年輩くらいの少年が数人、あと大学生らしき青年がもう一人。

くつろいで、壁に寄りかかったり、足を投げ出していたりする。

ピレシュの褐色の顔が肯く。

彼女の顔はますます精悍に、ほとんど哲学者のように見えるのだった。

 ママたちがいる右側のピンクがかった壁の前には粗末な奥行きのないテーブルが一つ。

そしてその上に薄い黄色の壷が置いてある。

壷には何かガチョウの羽のようなものが投げ込まれ、

庭のほうから入ってくる秋の明かりにくっきりとした翳りを浮かび上がらせてゐる。

「歌うようによ」「音を開くの」。

 少し休んで、壁際の少年たちに向かう。

「みんなはマシンガンのように練習したがっているわ。マシンガンのようにね」

少年たちは戸惑いを見せる。理解できないということに一瞬ひるむのだ。

「それはね、偽ものなの。偽ものの練習に過ぎないの」「だから変化があるともう駄目に」。

 ピレシュはざっくりした木綿のような肌合いのワンピースを着て、

ボーイッシュにカットされた金髪に赤いバンダナを巻いて、

彼女はまたピアノの前を、少年の背後を通って、右側に。

はだけた褐色の胸には汗が浮かび、「そうよ、いいわ、歌うようにね」「ありがとう」。

最後に弾いて見せた。素晴らしい演奏だった。

秋の日差しがそのリビングのような部屋に忍び込んできた。