草原は空の上にあった。浮きただよへるおほきな気持ちのよい草むらであった。
湿原はあちらこちらに小さなあるいは程よい大きさの池塘をあつらへそれらは眼に極上の安らぎをあたへる。お花の季節は去り、ゆへに草原はしずかな威厳さえ感じさせるおほきなシルエットとなってぼくらを包んだ。
花はない、とはいえよく見ると枯れ果てたチングルマのかげ、草むらのあいだあいだに小さき桔梗、名前のわからぬ穂の、白き、淡き、薄紅そして赤くゴマつぶのような実を結ぶ花もあった。すべて思い出のやうな花でそれだからこそ余計に立ち去りがたく、
妻は木道のはるか彼方にたちまちその点景を映す。
いまはわたしは急ぐことのない旅人のやうに胸にいっぱいの息を吸い込み、屈み、伸び、眼庇をし、考える詩人となる。起伏はなだらかにゆったりと伸び縮みしながら続く。行き交う人はそれほどおほくはない。湿原は右左に。ワタスゲの白い毛の風の形に残る群むらもあり。木道にまたリンドウの花咲くもあり。今日のうちで一番きれいなてふキリンソウも行く人帰る人を慰める。
12;20シラビソの低き林を過ぎると中門岳の標識のもとに出た。お池がひろがり、ベンチが三台しつらえてあった。



















