「おお!激坂トレーニング!」

買い物で、車を走らせている時、かなりの上り坂を力強く走る男性。しかもマスクしている!

「これは完全に追い込み型トレーニングだわ」

車に乗っている時、ついついランナーさんを目で追ってしまう。

坂道、キツイのよね。

ダッシュとかも嫌だし。

いつも来る郵便のおじさんは、マラソンランナーさんとの事。若々しいし、他にも色々やっているので話をよく聞いていたら、

「俺、何歳だと思う?」

と聞いて来た。

間違っても、実年齢より上を言ってはいけない。

あんまり年齢について詮索した事ないから、急に振ってきたこの「何歳だ?」に、目が泳いでしまった。

私と同じ年では…ない。

だとすると60代なのかな…。

でも訳がわからなくなって、つい「私ぐらいですか?」と、トンチンカンな事言ってしまった。

そこはスルーされたが、70歳なんだという。

「えっ!」

とても、そうは見えなかった。

しかし、きっとそこは自慢であろう。

私の驚きは、リアルに見えたのか、彼は上機嫌になった。

「100キロマラソンも完走したこと、あるんだよ」

真偽の程はわからないけど(失礼)、体型からすると、マラソンはやっていた感じはする。

他にも、ゴルフ、柔道もそこそこ極めた話が出て、将棋、麻雀もかなりの腕だと、運動系以外も実力者らしい。

「今ちょっと忙しいのだけどな」

思いの外、長引く話に、私ったらそんな事を思ってしまった。でも、ちょっと忙しい様子とかで、分かるじゃん。空気読んでよ。

しかし、何かが人より長けている話は、話したくもなるだろう。実際、本当にすごい話なのだ。

だから、ふんふん、と真面目に聞いてみる事にする。

麻雀の話で、更に色々強さの事を語り始めようかという時に、私は

「去年、国士無双13面待ちで、アガったんですぅ」

私はツラっと、話を被せた。

国士無双13面待ちのようなダブル役満と言われるものは、なかなかアガれるものではない。

国士無双や、四暗刻(スーアンコウ)は、滅多にアガれない「役満」の中で比較的見る事がでこる。

そうだな…パチンコでいうなら、海物語の「サム」ぐらいのレア感かな?

競馬なら馬連、五万馬券当たっちゃうくらい?

例えがギャンブルばっかりじゃないか!

ま、そんなレア級の役満アガれた話なんか出しちゃったから、そのおじさんはビックリしていた。

「参りました」

と頭まで下げられた。

「あーしまった!」

折角色々凄い話聞かせてくれたのに、上から丸ごと被せてしまったな…。

「俺、もう行くわ」

おじさんの後ろ姿を見つめながら、申し訳ない気持ちになった。

「ゴメンネ」

空気が読めないのは、私の方だと、反省したのである。