私の夫は、高校卒業後、東京の大学に行っていた。
箱根駅伝の常連校に在学していて、所属は、勿論陸上部…ではなく、バドミントン部。
はじめは寮にいたが、その後、安いアパートに移り、一人暮らし。
仕送りしてもらっても、大抵の学生さんは、お金が足りないはず。
夫は、色んなアルバイトをしても、貧乏していたそうである。
東京には知り合いもいないから、猫を飼っていて
寂しい一人暮らしを猫に癒してもらう。
あまりにもお金がない時、キャットフードを食べた事もあったらしい。
こんな貧乏だから、長い休みで帰省する時は、空路で帰れず、いつも陸路である。
羽田↔︎千歳間なんて、一日中飛んでいるのに、陸路を選ばざるを得ないのは、こちらの方が「安いから」。
私は、飛行機ではなく、陸路で元妻の葬儀に出席する田中邦衛扮する「五郎」の事を思い出す。
「何故子供達は飛行機で来てるのに、五郎さんは到着が遅れているんだ」、と皆に言われている。
五郎も当然早く来たかったけど、何せ当時の飛行機代は、高い。
したがって、バスや列車に乗り継いでやっとこさ現れるのである。
葬儀を待つ面々が、吾郎到着前に「非常識である」などと言うので、それは、お金がないからだ、明けても暮れても「地べた這いつくばって働いている」けれど、お金がギリギリなのだ。アンタたちにそれは分からんだろうね、と一蹴する場面がある。
私はこのシーンが好きで、北の国からの全話の中でも、3番の指に入る。
人には色んな事情がある、という事を私は、深く学んだのである。
さて、夫はとある年の暮れに、実家札幌に帰った。
飛行機代がないから、上野から列車に乗る。
それはまさに上野発の夜行列車。
青森駅は雪の中だったそうだ。
「おお、まさにそれは石川さゆりの世界!」
と感激した私だった。
しかし!
そのまま連絡船に乗ったは良いが、凍えそうなカモメではなく、楽しそうなイルカを見ていたのであった。