私の母は、ジャズが好きである。
昭和17年生まれの母の年代は「ジャズ」を良く聞いていたと思われる。
普段は、近所のスーパーに行って、荷物持ちするぐらいしか、母と出かけない私は、姉が取ってくれたチケットで、「渡辺貞夫ジャズコンサート」に行った事がある。
札幌「キタラ」に初めて行った2人は、生演奏に圧倒し、スタートから大いに盛り上がる。
「お母さんすごいねえ!音の、反響がいいね」
私の右横にいる母には恐らく私の声は聞こえてない。
音は大きいが、ジャズなので、ガシャガシャうるさくない。知っている曲を聞いているうちは良かったが、疲れもあり、私はうつらうつら、し始める。
気付いたら、私はコクリコクリと眠っていた。
しばらくして、体が揺れて、目が覚めた。
まだ寝ぼけた頭は、状況が飲み込めてなく、目の前は霞んでいる。
「うん?」
よっぽど深い眠りだったのか?
どうして身体が揺れている?
ふと右にいる母を見たら、身体をモゾモゾ動かしていた。
よく見らと、リズムに合ってはいないが、どうやら音に反応しているようだ。
「ノッてるじゃん!」
私が居眠りしている間、ヒデコさんは、音楽に聞き入って、体が自然に反応したらしい。
演奏が終わり、満足して会場を出た。
「良かったね!リズムに合ってなかったけど」
「ウン」
この後、ススキノの蟹将軍でカニを食べて、今日の事について話す。
「お母さん、随分ノッていたね。知っている曲なの?」
カニの茶碗蒸しを口に運びながら、顔を上げると
「えっ?何?」
と言って、母はタラバガニに貪りついている。
感想もないのか。
好きな音楽もカニには、かなわないと見える。
花より団子という事かい?
そもそも「ジャズ好き」という割には、家にレコード一枚ない。
「ジャス好き」だというのも私が30過ぎて初めて知った事。
テレビで「ジャス」番組を探して見るでもない。
こんなんで「ジャス好き」と語るのは、いかがなものかと思う、私なのである。