9月23日木曜日。30日目。

病院から呼ばれて、面会に行く。

平日だから、エントランスは人で溢れかえり、警備、スタッフ、そして患者さん達…。最近は病院内にカフェもあるから、なんだか和やか。

救急救命病棟の場所を担当看護師さんから電話で確認済み。メモを取っていたので、てくてく目標の場所を目指して歩く。少しキョロキョロしながら…。

エレベーターで指定された階で降りて、小さな部屋の中で待つ。患者さん本人や家族に説明する場所ではないか。大人しくそこで少し待っていると、

「采田さん、スミマセン。急患で少しお待たせします。申し訳ないですけど2時間ほど…」

「あ、ハイ!良いですよ!大丈夫です。急患さんはあたりまえですし」

私は、予定がないから何にも急がない。

街中に戻り、フラフラ時間を潰していたら、携帯の着信を見逃した。

「あ!すいません!気づかなくて…」

「ハイ!すぐ病院に戻ります!」

三越で開催していた岩合さん展で足をすくわれ、写真に見入っていたから、あっという間に時間が、過ぎていたようだ。

急いで駆けつけて、救急救命病棟に付く。厳重なセキュリティ。

ドアを開けると、フロアの一番奥に夫がいた。

随分痩せて、目の焦点も合ってない。管という管が体から出ているが、目線は、なんとか私の方に向いている。

「よかったね」

私は声をかけた。

昨日の電話では、ゾンビのうめき声だったけど、ちゃんと会話ができる。運命の再開で、感動的に…というのを期待していたわけではないけど、

夫はベットの上で、バタバタしている。

点滴、酸素、心電図、呼吸、尿カテーテル…いろんな物に繋がれて、がんじがらめ。

ベット脇にあるモニターで、CT画像を見せてもらいながら、医師に、説明してもらった。

見覚えのある画像…肺の影のダメージは、私の肺炎の比ではない。

苦しかっただろうに…。

スタッフの皆さんにも心から感謝する。

ふと見上げる隣の部屋と思われる入口には、赤いテープが貼ってある。

レッドゾーン…。あちら側には緊急で、重篤な方がいらっしゃるのだろう。

ついこの間まではその部屋に、夫も居たのだ。

本人に会えて、やっと「生還した」と実感した。

「怖かった…もうダメかと思った…」

安心した顔から流れる涙をティッシュで拭いてあげながら、私は手を握ってあげた。