9月22日水曜日。29日目。
電話が来たのは、出勤前の午前中だった。
いつもの定期説明の日ではない連絡なので、一瞬ヒヤッとした。
お電話の方は看護師さんであった。
「呼吸器外しましたよ!状態は良くなってきました。お話されませんか?」
「え!無事呼吸器取れたんですね!本当にありがとうございました!」
心の準備ができないまま、電話の先の声に注目する。
「ホラ、奥さんですよ!話してみて!」
看護師さんに、促されているようだ。2週間も寝ていたのだから、無理もない。きっと、今の自分の状況も、場所も、何も分かっていないに違いない。
「もう、大丈夫だよ。わかる?」
「………」
「聞こえる?まだ苦しいところ、ある?」
「……」
あれ?聞こえてないのかな?静かにして、耳を傾ける。
「ぁ…ぁ……」
「ゥーーアーーゥーー」
ゾンビのうめき声が地の底から聞こえてくる。
絞り出した声は、言葉にならなくて、お腹に力が入らないから、かすれるだけだった。なんとか話そうと頑張る夫をゾンビ扱い(笑)。
声を交わして無事を確認出来たことで、やっと私も不安から解放された。
翌日、病院で医師の説明を聞くことになった。特別に面会をさせてくれるらしい。テーブルに並べてあるお守りに礼をして、ドーベルの写真をしばらく見つめてから、私は仕事に出掛けた。
まだ油断出来ないのかもしれないけれど…夫の命は助かった。
色々な力が働いて、助けて頂いたのだ。