1月。走り始めて9か月経つ。
辺り一面真っ白な世界。
見慣れているけど、その中を走ったことはない。
寒さには、耐えられるのか、足元は滑らないかなど、冬ならではの不安がある。
新雪で、走るとサクサクした。前を見なければ危ないけれど、地面ばかり注意して走る。
駅からの帰宅者の配慮は相変わらず怠らない。
「ゴホンゴホン」
高めのキーの咳払い。女性ですよ、アピール。
そんな小芝居も、通り過ぎれば全身赤女だから、彼女達を追い抜くと結局ビックリされるのに…。
上下赤のウインドブレーカー。携帯に視線を釘付けにしてるのに、2度見するほど驚く事かな?
とにかく雪が降る中を走っても目立つらしい。安全は確保できそうだ。全身赤女は冬も張りきって走る。
雪はどんどん積もってきて、いよいよスパイクシューズの出番がくる。
家の前で軽く準備運動してから走り出す。
ピンが付いているので、足の裏は地面と平行にできない。玄関を出た駐車場は、ロードヒーティングになっていて、私はかかと歩きで道路に向かう。
と、その道路もロードヒーティング!
さすが、地下鉄駅近く!辺りの道には雪がなくて、私はそのままかかとで歩き続ける。
カツカツカツカツ音を鳴らし、がに股で、かかと歩きをする女。
全身赤女は、ペンギンさながら、雪がある所までヨチヨチ歩いていた。
いつもならサッサと通り過ぎるのに、とんだロスタイムである。
ロスタイムを取戻すべく走り出せたと思ったら、途切れ途切れにコンクリートが現れる。駅のマンションは、エントランス前もしっかり安全対策を取っていて、
ロードヒーティングにしているらしい。
ヨチヨチ歩きの赤ペンギンは、なかなか走れなかった。
冬の夜は、いつも強い風が吹いている。
冷たい風が下から上に、粉雪が舞い上がるから、まともに雪が被さり、顔はべちゃべちゃ。険しい顔をして走る姿は「カッコイイ」とは言い難いく、「何か怪しいモノ」というテイ。
後ろから近付いて、帰宅する若い女性を驚かす、怪しい人物出没!などと回覧板に載せられたらどうしよう。
子供が見たら、「怪しいモノ」が、もはや「口裂け女」ばりの都市伝説となり、付近の学校で、大騒ぎになってしまうかもしれない!
走ったり、ヨチヨチしながら、川に到達し、橋の上から見える景色を横目に見る。川は薄氷を張っていて、気温の低さを改めて思う。
「こんなに頑張っているのに、治安を乱す事になったら嫌だな」
夜だから怪しいのだ。よし、昼間走るぞ!
次の日、眩しい外の光に目を細め、日中走る時のために買っておいたサングラスをかけた。きっとカッコイイに違いない。
走り終えて、用事があったため、そのまま近所の妹の家に向かう。
私を見た瞬間、彼女は言い放った。
「なにそれ?横浜銀蝿?」
正月早々、玄関先で大笑いされたのだった。