我が母は「ヒデコ」という。
このお方は、そんじょそこらにいるお方かではない。
天然の中の天然。
大天然である。
本物の天然は、自分が天然と自覚していない。
むしろ「しっかり者」と思い込んでいるフシがある。
彼女にとって、機転を効かせたつもりのある事件がある。
私が中学生の頃のあるお話。
文化祭で、大名行列をやることになった私のクラスは、「侍」の衣装で、袴が必要になった。
本物をレンタルするわけにはいかないので、女子は、柔道着でアレンジする事に。
当時柔道の授業は、男子だけ。その為私を含め、一部の女子は、違うクラスに好きな人がいる場合、その人に柔道着を借りた。
文化祭無事終了後、何故かヒデコがその柔道着を、洗濯している。
ハテ?
どうやって見つけた?
隠してたのに…?
こっそり自分で洗おうと思ってたのに…?
「フンフンフン🎵」
歌っているわけではないけれど、まるでサザエさんのように洗濯の時はご機嫌だ。
「フンフンフン🎵」
大きな柔道着を物干し竿にかけている。
流石にその大きさは、私のサイズではないことは、見てすぐ分かる。
「絶対男子に借りたのがバレたな」
私は、ヒデコに何を言われるのかドキドキしていた。
よく晴れて洗濯日和のその日は、生地が厚い柔道着もすぐ乾いた。
ヒデコはそれを取り込み、他の洗濯物と一緒に部屋で畳んでいる。
「フンフンフン🎵」
私はその様子を隣の部屋からそおっと伺っている。
「何も言わないところを見ると、黙って洗って、そおっと私のカバンに入れてくれるのかな?とりあえずは、さりげなく洗っておいてくれたという事か…?」
「ヨイショっと」
ヒデコは私の洗濯物と一緒に柔道着を抱えて2階に上がる。
しばらくして私は自分の部屋へ、洗濯物を確認に向かう。
「あれ?ない?」
洗った物はどこにも置いてない。
「もしかして…」
私は自分のタンスの引き出しを開けた。
「あっっ‼️」
そこには、畳んだ柔道着があった。
それはヒデコが、気が付かないフリをしたわけではないのだ。
「本当に分からなかったんだ…」
その証拠に、後で私に
「柔道もやる事になったんだね」
と言い放った。
私は心底ギョッとした。
ヒデコはそう言いつつ、実は…みたいな裏のある人ではない。
その大きな柔道着を完全に娘の物だと疑わないヒデコに、私はザワついたのであった。