無名塾 公演

朗読劇 「人間失格」

12月17日(木) 18:30開演 會津風雅堂

原作=太宰治  上演台本・演出=岡山 矢
出演=仲代達矢 他、無名塾

◆作品について
『人間失格』は、太宰治の自伝的要素を色濃く反映した作品ですが、最初の「はしがき」の部分で、「大庭葉蔵」の幼少・学生・成人と三枚の写真のことが語られ、「第一の手記」でその幼少時代のこと、「第二の手記」で旧制中学・旧制高校時代、そして、「第三の手記」では成人してからのことが話されます。これに「あとがき」が付いて、それらの写真と手記を、京橋のスタンド・バアのマダム(「第三の手記」で登場する)を通じて貰った小説家が、この作品を世に出した経緯が明らかにされる構造になっています。
こうした作品の構造を活用し、仲代がその小説化を演ずる形で全体の構成をして行きます。つまり、「写真」のことについて最初に仲代が読み、そのあとに続けて「手記」の部分は無名塾メンバーが朗読、そして、「幼少」「学生」「成人」と辿った最後に、小説家役の仲代の「あとがき」が加わるという形態です。

◆上演にあたって
仲代は、十代の若い頃に、太宰治の文学に憧れました。敗戦後一夜にして「鬼畜米英」から「親米」へと寝返った大人たちや世間への不信感から、自分というものの拠って立つ根拠を探し求めるうちに、偽りなく自分の中にある悪や醜さをも表出した太宰の文学に巡り合ったものと思われます。価値観の混乱や甚だしい喪失感から、誰もが生きていく精神的足場をなくしている時期です。当時の青年たちにとっては、干上がった地面に水が染みこむように、太宰の文学は彼らの心を潤していったものと思われます。仲代もその一人でした。青春に特有の瑞々しい感受性を、激しく揺さぶったのです。爾来、太宰の作品は、仲代の最も愛好するものとなりました。
いま、私たちの社会にも、太宰が敗戦後に捉えた人間のエゴイズムは、変わりなく権力の中枢を覆っている感があります。嘘や偽りや隠蔽の蔓延する時代だからこそ、こうした朗読劇を上演する意味があるように思えます。                 (東北演鑑連2020年例会企画作品資料集より抜粋)