「関係を良くしよう」と思って始めたことが、関係を壊した。
そうはっきり自覚した瞬間がある。
会話がない、という静かな崩壊
妻との会話は、ほとんどない。
「おかえり」
「うん」
それで終わる日もある。
同じ部屋にいるのに、誰とも会っていないような感覚になる。
テレビの音だけが流れて、生活の輪郭だけが残っている。
もともと私は、人と話すのが好きな人間だった。
くだらない雑談でもいい。誰かと何かを共有する時間が好きだった。
でも今は、それがない。
ただそれだけのことなのに、じわじわと削られていく。
家族としての機能が止まっていく
会話がないと、「話すべきこと」も話さなくなる。
子どものこと。
お金のこと。
これからのこと。
本来、家族として共有していくべき話題が、すべて止まる。
同じ家に住んでいるだけで、もう共同体として機能していない。
そんな違和感は、ずっとあった。
「15分だけ話そう」という提案
このままではまずいと思った。
だから私は提案した。
「週に1回、15分だけでいいから話そう」
普通の夫婦なら、わざわざ作る必要のない時間だと思う。
でも、何もない状態から戻すには、それくらいしか思いつかなかった。
最初は、それでいいと思っていた。
LINEが来るたびに、体が固まるようになった
「今日、話す?」
その一文が送られてくるようになった。
そのたびに、体が固まる。
今日はやめたい。
うまく話せる気がしない。
何を話せばいいのか分からない。
でも断ったら、次がなくなるかもしれない。
気まずくなるかもしれない。
この関係は、もう完全に終わるかもしれない。
だから、やるしかない。
そうやって、自分を追い込むようになった。
これは「義務セックス」と同じだった
途中で気づいた。
これは、いわゆる「義務セックス」と同じ構造だ。
しかも、自分が「レスり」側の感覚に近いところに立っていることに気づいた。
おそらく、最初は相手に寄り添う気持ちがあったのだと思う。
関係をなんとかしたいという思いもあったはずだ。
それでも、
やると決めたのに、やりたくない。
ただやりたくないだけではなく、
どうすれば「やりたくない」を伝えられるのかを考えてしまう。
ただ断れば、自分が悪くなる。
相手を傷つける。
関係にも影響が出る。
だから悩むのは、やるかどうかではなく、どう断るかになる。
自分を加害者にせず、相手を傷つけずに断る方法。
関係を壊さない言い方。
相手にこれ以上期待させない距離の取り方。
そこに神経を使い続ける。
それ自体が、もう消耗だった。
そしてその消耗は、相手には見えない。
私は「レスられ」の裏側を見てしまった気がした。
ただの想像であってほしかった。
でも、あまりにもリアルだった。
だからこそ、「もう終わっている」と思い込むには十分だった。
「やらなければいけない関係」は、もう終わっている
気づいたときには遅かった。
関係を維持するために「やらなければいけない」と思った時点で、
もうその関係は自然なものではなくなっている。
「一緒にいたいからやる」ではなく、
「壊したくないからやる」になっていた。
その違いは、決定的だった。
だから私は、何も言わなかった
ある日、私はその時間を無視した。
返信もしなかった。
理由は単純で、何かを言えば本音が出ると思ったからだ。
「もう無理かもしれない」
「離婚したいかもしれない」
そういう言葉が出てしまえば、もう戻れない。
だから黙った。
逃げかもしれない。
でも、終わらせないための最後の選択でもあった。
沈黙の時間の中で
このまま続かないことは分かっている。
次は、もう誘われないかもしれない。
あるいは、もっとはっきりした形で何かを突きつけられるかもしれない。
どちらにしても、この状態は長くは持たない。
それでも今は、この沈黙の時間にいる。
何かを決めるための時間なのか、
ただ先延ばしにしているだけなのかは、まだ分からない。
ただ一つ分かっているのは、
「関係を良くしようとして壊れることもある」
ということだけだ。
それでも、まだ迷っている
ただ、これはあくまで自分の中でそう感じただけのことかもしれない。
本当にここで諦めていいのかは、まだ分からない。
諦めずに進んだ先に、何か残るものがあるのか。
それを確かめてからでも遅くはない気もしている。
また来週、同じ時間が来る。
その日、私は何を選ぶのか。
——正直、まだ分からない。
貴方は何を選びますか?
