一般人というものは偶然が大好きだ。
坂本弁護士のドアの鍵が開いていたのは偶然。
青山の東京総本部道場の地下室の鍵がかかっていたのも偶然。
そう考える。
しかし、オウムではそうは考えない。
全てはカルマ・因果であると考える。
原因があって結果があり、それは必然であるとするのだ。
麻原が鍵が開いていると言ったのに地下室の鍵が閉まっていた。
麻原がそう言ったからには、誰かに開けておくよう指示しているのが当然の事である。
そして、その上で誰もカギに近寄らせないようにその場で監視するはずだ。
たとえ自分よりも遥かにステージの高い上祐が鍵をかけようとしても、麻原の指示だからと言って開けたままにするはずである。
麻原が言ったのなら、オウム真理教内においては絶対に開いていなければおかしいのだ。
しかし、閉まっていた。
しかも、誰が閉めたのかも分かっていない。
林泰男はこの件に関して、自分は建物の中にいたが鍵はかけていないと答えている。
村井の死の原因を作り出した鍵をかけた者、村井が建物の中に入るのを妨害したサマナ達、村井の盾になる事すら出来なかった間抜けなボディーガード。
誰一人として処罰されていない。
オウムの悪口を言っただけで命を狙われる人がいるというのに、オウムの最重要人物が殺されたにもかかわらず誰も処罰されず犯人への報復も行われていない。
これだけ証拠が揃っているのに、麻原がプロに仕事を依頼したと考えるのは世界でワシ一人だけである。
感情に流されず、思考停止せずに考え続けるなら他に答えはないと思うのだが。
それにしてもプロの仕事というのは見事なものだ。
何一つとして証拠を残していないのだから。
これがドラマやアニメなら、主人公のセリフは決まっている。
「私の推理は完璧だ。後は君たちが証拠を見つけるだけだ。」