現代化学8月号に中川の記事が6ページ載っている。
ぱっと見ただけで、素人目にはVXの合成はサリンとは比較にならないほど難しいように思える。
サリンの構造は単純だが、VXの構造はそれよりも遥かに複雑である。
よくこんな物を作り出したなと思う。
サリンは偶然の産物だが、VXは人を殺傷するために意図的に作り出されたものだという明らかな形状を持っている。
現代化学編集グループの注釈として、個人の見解をまとめたものであり推測の域を出ない記述もあるが、VXを扱った経験のある中川による貴重な記録であるためそのまま掲載した。ということだそうだ。
それはそうだろうなと思う。
持っているだけでも、作り出すだけでも犯罪となる物質の検証など出来るはずがない。
中川もまた、拘置所の中で実験による検証は不可能だ。
しかし、塀の中で様々な文献を頼りに論理的な思考だけを積み重ねて、おそらくは世界中で中川にしか辿り着けない結論を見事に導き出してくれている。
中川が導き出した結論、それはこの記事の副題にもある「VXを素手で扱った実行犯はなぜ無事だったのか?」の問いに答えるものだ。
VXは指先に触れただけで人を死に至らしめる猛毒である。
にもかかわらず実行犯の女性は何とも無かった。
その答えがここにある。