それでは、話を戻して、あの当時サリンを撒けと言われたらどうしたのかを考えてみよう。
これはもう間違いなく、寝耳に水の話だったはずだ。
当時、オウムがサリンを製造していることを知っていたのは一部の幹部のみ。
麻原は説法でサリンについて語ってはいるが、その程度の話を聞いたところで、サリンの殺傷力がどれほど凄まじいものかは分かるはずもない。
しかも麻原は、サリンの作用について間違った説明をしている。
麻原はサリンについて、アセチルコリンの働きをブロックすると述べているが、この作用はサリンではなくボツリヌスのものである。
しかも、自然界に存在するボツリヌスを経口摂取した場合に問題になる事ではなく、生物兵器として使用した場合の作用について述べているのだ。
まあ、ここからも、麻原が本気でボツリヌステロを起こすつもりだった事が明らかになるのだが。
サリンを撒けと言われてもまさに寝耳に水、そこで色々な事を考えることになる。
こういう時、オウムでは余計な質問は厳禁である。
なので、自分の頭で考えるしかない。
最初に考えることは、サリンを一体どうしたのだろうという事だと思う。
よそから手に入れるという事は有り得ない。
これはオウムにいた者で、それなりの地位にいれば当たり前すぎるほどの常識である。
次に、という事は、オウム内部でサリンが作られたということなのだろうかと考える事になる。
そして、サリンなどというものを、作れるとしたら一体誰なのだろうと考える。
科学関係の部署の幹部たちを順番に見ていく事になるが、村井には到底無理だろう。(笑)
遠藤はどうだろうか?
これは村井よりは詳しいかもしれないが、所詮はウイルスの専門家。
化学の知識は乏しいから、これも無理だろう。
他にも、中川にせよ、広瀬にせよ、サリンなど作れそうにない。
ということは、サリンなどと言ってはいるが、オウムにはサリンは無い。
そういう結論になる。