目の前に金属の壁が押し寄せてくる。
だからといって、何か特に感慨があるわけではない。
いうならば、お気になさらぬよう。
そんな感じかもしれない。
警察に対する憤りも、自分を見捨てた仲間たちに対する怒りも、何もなかった。
もし、そんなものを感じるのなら、初めからNと同じように道場の中に逃げ込めばいいだけの事だ。
道場の中にいれば、機動隊と正面からぶつかる必要などないのだから。
機動隊の突入を、しかもど真ん中で真正面から受け止めようとしているのは、自分でそれを選んだからだ。
誰のせいでもない。
全ては、自分のカルマによって起こっているだけの事。
壁が近づいてくる。
50センチ、
30センチ、
20センチ、
10センチ、
人間というのは面白いもので、緊急事態になるとその状況をスローモーションの様に感じる。
ゴツ、
ゴツン、
身体のあちこちが固いものにぶつかった。
全力で押し返そうとするのだが、びくともしない。
ずりずりと地面をすべるようにして、門扉に押し付けられる。
動けない。
その時、
メキッ、メキメキッ、
と、背中で不気味な音がした。
と思った、次の瞬間、
バキバキバキ~、ガシャーン、
と、ものすごい音がして、門扉ごとサティアンの方へ押し込まれてしまった。