それにしても実に見事な侵入だった。
ほんの2、3秒、空を見上げていたり、上九方面に目をやっていたら、完全に見逃してしまっている。
高性能の整備が行き届いた車に、高度な運転技術を持つドライバー。
そのふたつが揃って、初めて可能になるということなのだと思う。
ライオンや虎などの猛獣は、獲物を脅したりはしない。
餌は捕まえて、ただ食らうだけ。
相手に気付かれないように気配を断ち、いきなり襲う。
そんな感じで、警察はやって来た。
それが強制捜査というものなのだろう。
僕のとなり、少し左側にいたMも気付いた。
監視小屋の中でアストラルへの旅を楽しんでいたNに向かって叫んだ。
「NDッタラー。警察ー!」
その声で正気を取り戻し、苦しみの世界へ戻って来たNが、
「え?何?」
みたいな顔をしているところへ、MGヤが続けて叫ぶ。
「警察が来た!事務所へ電話しろ。」
ここから先のNの反応は、さすがに早かった。
朝、強制捜査があるという報告を受けていたために、内線の電話番号はすでに頭に入っている。
すぐに電話をかけ、受話器を置いたNの顔がなんだかとても悲しそうに見えた。
そして、呟くように言った。
「追い返してくださいって。」
意表を突く答えが返って来た。
強制捜査があるという情報を得ており、そして実際に強制捜査があった。
その対策が、「追い返してください。」の一言だけ。
「誰がそんなバカな事を言ってんだー!」
Mが叫んだが、これには僕も同意見だ。
そして、すぐにNがそのバカの名前を教えてくれた。
マハーケイマ正大師。
それが信じ難いほどのバカの名前だった。(笑)