僕の質問は今後のテロの可能性について。
化学兵器に関しては、薬品の大量購入をチェックしていればテロを事前に見つけ出すことが出来るが、生物兵器の場合はそれが出来ない。
これは生物兵器は培養によって増やすことが出来るためであり、何か特別なものを大量に購入する必要がないため。
iPS細胞が簡単に培養出来るほど技術が進歩した現在においては、生物兵器の開発などたやすいのではないか?
という質問だったのだが、まあ、ちょっと論点が曖昧なので、逆にトゥー先生から質問されてしまった。
「たとえば、どこで?」
と聞かれたので、「京大の実験室で。」と答えた。
トゥー先生はあっさりと、「出来ますよ。」と答えた。
生物兵器であろうと、化学兵器であろうと、作るのは簡単らしい。
それよりも、安全の確保のほうが難しい。
生物兵器にしろ化学兵器にしろ、ほんのわずかでも漏れ出せば生死に関わるからだ。
安全に作業を進めるための設備と、万一の場合の医療スタッフ。
オウムにはその二つが揃っていたのだが、重要なのはサリンを作り出すことよりもむしろそっち。
これは僕が前から思っていたことと同じだった。
まあ、トゥー先生は当たり障りのない応答をしたのだが、僕がもっと突っ込んで聞きたかったのは、一般家庭でも生物兵器の製造が可能なのかどうかというとだったのだが、話はそちらへは行かなかった。
今では家庭用のヨーグルトメーカーで、ヨーグルトだけでなく塩こうじも作れる時代になってきた。
電子レンジで滅菌処理もできるし、寒天培地を使えば嫌気性の条件もクリアできる。
ボツリヌスにせよ炭疽菌にせよ、家庭用のヨーグルトメーカーの1リットルサイズで培養されただけで、とてつもない殺傷力を持つのだ。
ボツリヌスも炭疽菌も自然界の土の中に存在している。
炭疽菌はそうではなかったが、オウムでも遠藤が土の中からボツリヌスを分離・培養したとされている。
どこかのテロリストが、極限のワークで土の中からこれらの細菌を分離したとき、恐ろしい事が起きる可能性があると考えるのは、僕だけなのだろうか。
実験室がなければ作れないじゃないかと考えるかもしれないが、じつはそうとも言い切れない。
対テロ用に、一般人向けの防毒マスクが販売されている。
それを使えば、短時間の作業は十分に可能なのだ。
それにそもそも、自爆テロを起こすような連中が、自分の身の安全の確保になど重点を置くとは思えない。